「待ってて」
ずっと待っていたかった。
待てるつもりだった。
でも、いくら待っても来ないとわかったから、
待つのはもうやめる。
「伝えたい」
人に自分のことを伝えるのって難しい。
何を伝えれば充分というものはないと思う。
自己紹介してくださいと言われ、
名前、年齢、学歴、職歴、資格…
面接で羅列するものってこんな感じ。
「あなたは誰?どんな人?」
この質問に上の情報じゃないものを答えてくれる人が
私にとって、とても興味深い人になる。
「この場所で」
この場所で君と出会い
この場所で君に恋して
この場所で君と愛し合い…
今、この場所で君と別れようとしている。
出会った頃よりも皺が増え、
痩せ細った妻の顔を覆った白い布をとる。
生前と変わらず綺麗な顔をしている。
「綺麗にしてもらえて…よかったなぁ」
言葉は返ってこないが、話しかけてしまう。
まだ妻の死を受け入れられていない自分がいる。
だって、ずっと一緒だった。
もちろん、いいことばかりじゃなかった。
キツイこともたくさん言われた。
きっと、こんなことを、おまえさんに伝えたら
「私の方が我慢してましたよ!
本当に都合が悪いことはすーぐ忘れる!」
と、怒られるだろう。
でも、おまえさんといると楽しかったんだ。
最後までおれと一緒にいることを選び、
この場所に、おれたちの家に、帰りたいと
病院から電話をかけてきてくれたこと、嬉しかった。
「ありがとう」
頬に流れる雫は、感謝と寂しさ。
おれももういい年だから近いうちに上で会える。
また、会える日まで
君と過ごしたこの場所におれはいる。
「誰もがみんな」
寿命の差はあれど、
生きとし生けるもの、いつかは死ぬ。
生きてる間に、何をするかは人それぞれ。
死というゴールがあるから、
生き物は頑張って生を謳歌する。
さあ、今日も生を謳歌しよう。
「花束」
私は幼い頃、目立つことがとにかく苦手だった。
お誕生日でお祝いされるのも家族でだけがよくて、
お店でバースデーソング歌ってもらうのすら苦手。
誕生日でも、家で食事するのがいいと言うほど。
そんな訳で、花束も私は苦手だった。
みんながもらう場面でなら貰えるが、
一人だけ注目される場で貰うことはできるだけ避けたい。
それでも、一度だけ貰ったことがある。
退院祝いに叔父からいただいた花束。
あの花束に込められた気遣いや心配を含めた
気持ちは、とてもありがたくて…
もっと喜んでありがとうと言える私でいたかった。
きっと、自分に自信が持てたら、
花束もバースデーソングも笑顔で受け取れるはず。
そんな自分に私はなりたい。