パーティ全滅勇者

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3/20/2024, 1:20:08 PM

“私の友達” (テーマ:夢が醒める前に)

皆様、今晩は。1日の終わり、もうすぐ寝られる方もいらっしゃるかしら?
少しの間だけでも良いから、私の不思議なお話を聞いて下さるかしら?

私がまだ、ずっとずっと幼かった時。そうね、私が6歳の時よ。私は内気で気弱で、内向的だったからお友達が居なかったの。私の唯一のお友達といえばテディベアの“ボブ”くらいよ。あとは、お父様とお母様も友達のようだったわ。兄弟もいなかったから、話し相手が両親しか居なかったの。でも両親は、寂しさを感じないくらい、たくさんの無償の愛を注いで育ててくれたわ。
でもね、やっぱり女の子のお友達が欲しかったの。一緒にお人形遊びができる友達が。
ある日私はクレヨンで画用紙いっぱいに空想のお友達を描いたの。お姫様の様な、天使の様な可愛らしい女の子を。名前は「レイ」にしたわ。何故レイにしたかって?だって可愛らしい響きじゃない?
私は毎日、頭の中でもレイと遊んだわ。花畑に行った時も、レイに花冠をつくってあげたの。渡せないと分かってても、空想のお友達は現実よりもずっと近く感じたわ。

ある晩、私は眠りについて夢か現実かわからない狭間に居たの。その時「ユマ」と私の名前を小鳥のさえずりの様な可愛らしい声で私の名前を呼ぶ声が聞こえたの。返事をしたかったけど、思うように声が出せなくてもどかしかったわ。次の晩もその次の次の晩も、何度も私の名を呼ぶ声が聞こえたの。誰が呼んでるのか
さっぱり見当もつかなかった。
でもある晩、私の名前を呼ぶ声に返事ができたの。「あなたは、だーれ?」って。そしたらその瞬間、パッと視界が開けたわ。目が開けれたの。そこは森の中で、目に入ったのは、何千年いや何億もの歴史が詰まった大樹だった。よく目を凝らすと、大樹に大きな時計が埋め込まれてたわ。お爺様の家にあった柱時計の様に。大樹の枝には1羽の真っ白な梟がとまってたわ。驚いたのはその梟の左目には執事がするような“モノクル”をつけてたの。その梟ったら喋れるのよ。私に向かって「この大樹の時計が翌朝の8時を迎えた時、あなたは現実世界へと帰ることになります。」とね。最初は意味がわからなかったわ。だって急に連れてこられた様なものですもの。それにまだ6歳と幼かった。でも、不思議なことに恐怖心は全くなかったわ。恐怖心よりもこの不思議な世界に胸が踊ったの。だって、とっても大きな木の時計に喋る梟よ。絵本の世界みたいで素敵じゃない!
私は梟に「私はどこへ行けばいいの?」と問いかけたわ。すると梟ったら、「あなたが望む場所へ行くのです。」って言うの。私は辺りを見渡したわ。すると奥にお城が見えたの。私がいつの日か画用紙に描いた真っ白な可愛いお城が。夢のようだったわ!まぁ、本当に夢だったのだけどね。お城へ私は一目散で駆けたわ。するとお城の扉から、毎晩聞いていた可愛らしい声が聞こえたの。「ユマ?ユマね!!」ってとっても嬉しそうな弾んだ声で。私は目を疑ったわ。だってそこに居たのは空想の世界で生きていた私の唯一のお友達レイだったから。雪景色に光を浴びた様なホワイトシルバーの髪に、陶器のように白く美しい肌。コスモスを目に映したような可愛らしいピンクの瞳。やっぱりレイに間違いないわ。「あなた、レイね!!」私は咄嗟にレイに抱きついた。温もりを存在を確認する様に。レイも私をぎゅっと抱きしめ返してくれたわ。
私はとても嬉しかった。目の前に私が求め続けた友達がいるんだもの。そして、触れられたんだもの。
その後レイがお城に案内してくれて、一緒にお茶をしながらこの世界のことを教えてくれたの。この世界は夢の国でレイは夢の国のお姫様。そして、私を空想のお友達として画用紙に描いてたそうよ。絵を見せてもらったら、本当に私にそっくりだったの。栗色の長い髪に栗色の瞳。そしてユマと書かれていたの。
今思えば、魂のどこかで通じ合っていたのかもしれないわ。だってただの偶然とは思えないもの。
お茶をした後は一緒に湖へ出かけたわ。そこにはたくさん妖精が水面で舞い踊っていてとても美しかった。本当に幻想的だった。妖精を見た後は、一緒にキノコの森へ行ったわ。私の背丈よりも大きなキノコで上に乗るとトランポリンの様に跳ねてとても楽しかった。ずっと跳ね続けて遊んだわ。そして次はお花畑へ行って、花の冠をつくり交換したの。お花の美しさも別格だったわ。おばあさんになった今でも、夢の国で見たお花畑の花よりも美しい花なんて無かったわ。そこへ二足歩行で歩くうさぎを見たの。アリスの世界の様で面白かったわ。

そして、無情にも時が過ぎて白い梟が私に知らせに来たの。「残りあと5分となりました。」とね。急な知らせと時間の経過の速さに驚いたわ。まだ遊び足りなかったし、離れたくなかったから。
残りの5分間、お互い手を取り合って見つめあったの。夢が醒めても忘れないように。夢が醒める前に、目に全身に彼女の存在を刻み込むために。私とレイは最後の最後まで手を握り「絶対に忘れないわ、ずっとずっと友達よ。」と夢が醒める瞬間までずっと言い続けたの。
目が覚めたら、そこはいつもと変わらない私の部屋の天井が見えたわ。「帰ってきたのね。」涙が溢れたわ。
幸せと寂しさを混ぜ合わせた複雑な感情に心が乱れたわ。それからは内向的だった性格も受け入れてくれる友達ができたの。そして恋をして結婚をして、子供も2人産まれたわ。今では3人の孫のおばあちゃんよ。
あの時以来、夢の国へは行けてないわ。会いたいわレイ。今は何処で何をしてるのかしら。とても恋しいわ。

レイ、もし魂が繋がっているのなら私の気持ちも伝わるはずよね。私はいつでもあなたの味方よ。何があろうともね。
愛を込めて。
ずっとずっとあなたの友達ユマより。

3/19/2024, 12:14:58 PM

“鼓動” (テーマ:胸が高鳴る)

「おい!あれ見てみろよ!!」少年たちは青空を指差した。機械仕掛けの飛行船だ。飛行船はゆうに全長100mは超えており、船の上に丸い気球の様な物が付いていた。太陽の炎と風の力だけで動いているようだ。この国では飛行船を見かけるのは珍しい。王都に行けば多種多様の飛行船が見れるようだ。この飛行船には大砲はついていなかった。あるのは気球と魔法がかけられた帆だけだ。きっと観光用か金持ち貴族の娯楽で造られた飛行船なのだろう。船の細部にはゼンマイや歯車など時計の部品の様なもので造られていた。

少年たちは胸を高鳴らせ、どうしたらあれに乗れるのだろうと討論しあった。1人の少年リュークは目を輝かせ、大きくなったら飛行船の操縦士になると心に誓った。リュークは周りの子供達に比べ、小柄だった。肌は雪をも嫉妬させる程の色白で、髪は朝焼けの様に眩しい金色。瞳は海を連想させる程の碧眼で愛らしい少年だった。リュークの家はとても裕福とは言えなかったが、愛だけは底なしだった。
リュークが操縦士になりたいと言った日も、父も母も否定することもなく笑顔で頷き受け入れてくれたのだ。

それから月日は流れ、リュークは操縦士の夢を叶え王都へと飛び立った。背丈は伸び、あどけなかった顔付きは勇ましく凛とした青年となった。ただ飛行船を初めて見た時の胸の高鳴りと瞳の輝きは残されたままだった。
初めての胸の高鳴りを刻み込むように。

次の年、リュークが操縦士2年目を迎えた年だ。
リュークが人生で2度目の胸の高鳴りを覚えたのだ。
そう、恋に落ちたのだ。飛行船での乗客を目的地で降ろし、飛行船のメンテナンスの為に整備場へと向かった時だ。「整備担当になりました。エレナですよろしく。」と声が後ろから聞こえた。振り返るとそこには、ルビーの様な綺麗な赤い色をした瞳と髪、赤色が映える綺麗な肌。目鼻立ちはシャープで美しく、女神が降りて来たのかと思う程だった。女性整備士というだけでも珍しいのに、こんなに美しい人が整備士に居たなんて。
リュークは時が止まったかの様に動きが止まった。酷く胸の音が耳に響いた。近くにいる誰もが自分の胸の音が聞こえるのではないかと錯覚するほどに。飛行船を初めて見た時の胸の高鳴りとはまた違う高鳴りだ。
微動だにしないリュークにエレナは不思議そうな表情を浮かべる。リュークは声を絞り出し「よろしく。」とだけ言い、顔を背けた。リュークにとってこれが精一杯だったのだ。
それから何度も会う機会があり、リュークはエレナの美しさに慣れることはなかったが、ある程度の会話はできるまでになった。そうして次第に打ち解け合い、2人は休みの日にはどこかでお茶をしようと一緒に出掛けるようになった。

リュークは人生3度目の胸の高鳴りを覚えた。1度目の時と2度目の時とはまた違う胸の高鳴りを。
焦燥感と不安感が混じった胸の高鳴りだった。今日はエレナの誕生日。両手いっぱいの花束と共に、愛の告白をしようと決めたのだ
待ち合わせの時間、時計台でエレナを待つ。胸の鼓動が激しく煩い。両手には汗がジワッと感じる。向かいからエレナが手を振り小走りでリュークの元へとやってくる。エレナがリュークへ朝の挨拶をしようとした瞬間、リュークは片膝を着き、まるでおとぎ話にでてくる王子様の様にエレナへ花束を渡した。
エレナは少し戸惑いながらも花束を受け取る。リュークは少し震えた声で「好きなんだ、付き合って欲しい。君さえ良ければ。」と真剣な眼差しでエレナを見つめた。エレナは顔を赤らめ大きく頷いた。「もちろん、もちろんイェスよ!」とそして「こんな素敵な誕生日は初めてだわ。こんなに胸が高鳴ったのも!」と満面の笑みで花束を抱きしめた。

3/18/2024, 12:45:27 PM

“西の魔女” (テーマ不条理)
今日、西の魔女が死んだ。魔女と言っても植物に詳しくて、薬草の知識に富んでいただけの普通の少女だ。
少女の名はスノトラ。北欧神話で賢明の女神の名と同じだ。名に劣らず、賢い少女だった。スノトラは雪が溶け込んだ様な白い肌、紫水晶を嵌め込んだ様な澄んだ綺麗な瞳。腰まである闇を纏った様な艶やかな黒髪。背筋は天から糸で吊るされてるのではないかと思う程シャンとして綺麗だ。
そう、彼女は綺麗だった。神話の女神よりも、古くから言い伝えられてきたこの町の妖精よりも。

僕が彼女を初めてみたのは、3年前のこの日だった。
僕は田舎町から出てきた冒険者の卵だった。
「西の魔女の家の近くに薬草があるから、採ってきて欲しい。」とギルドの受付嬢から紹介され、依頼を受けることにした。まだ大きな依頼を受けるにはランクが足りなかったからだ。「西の魔女にくれぐれも気をつけて。見つかると命はないですよ。捕まってしまえば、魔法や薬の実験台にされるそうです。」受付嬢は不安げな顔で僕に不安を煽りたいのか、本当に心配をしているのか分からない助言をした。
僕は1人で西の魔女が住んでいる場所へと向かった。道なりは険しくなく、楽に行けた。行くまでは問題無かったのだが、ただ、薬草探しに難航した。薬草の知識を持ち合わせてない僕は、そこら中に生えてる薬草全てが同じに見えた。ただの緑の草だ。腰を下ろしながら、薬草をかき分けお目当てのものを探す。なかなか見つからない。どうしたものかと考えていた時、「ちょっと!!そこのお方!!探してるのは、もしかしてこの薬草?」と後ろの方から聞こえてきた。鈴を転がした様な声だ。振り向き確認すると、そこには薬草を籠いっぱいに入れた少女が立っていた。美しい少女に僕は見惚れてしまった。少しして僕は頷くと「あげるからさ、家で少しお茶していかない??ここには誰も寄り付かなくて、客人なんて珍しいから。」とあどけない笑みを浮かべて少女は言った。少女の家はドライフラワーが壁一面に吊るされ、薬草と花の香りに包まれていた。彼女はハーブティーを出してくれた。疲れに効くハーブを煎じてくれたそうだ。僕は彼女とひと時の会話を楽しんだ。彼女は商人をしていた父と隣町から越してきたそうだ。しかし昨年病で父が倒れて以来、1人で住んでいるそうだ。1人で暮らしていくために、昔から詳しかった薬草の知識を活かし、薬を煎じては王都へ卸し生計を立てていたそうだ。どんな薬でもつくれる賢い少女だ。それがいつからか、彼女は魔女だからどんな薬でもつくれ、魔法さえも簡単に操ることができる。と噂がだんだんと膨らみ荒唐無稽な話が出来上がったのだ。
町の人々は、そんな彼女を“西の魔女”と言い蔑み忌み嫌った。彼女はそんなことも気にとめてない様子だった。
その日から僕は彼女に会いに、月に何度か家を訪ねた。僕が来ると嬉しそうに手を振り出迎えてくれた。美味しいクッキーやマフィンとハーブティーを用意して。いつしか彼女の虜になっていた。
そうやって過ごしていき月日は流れた。平和に過ごしていけると信じてやまなかった。
この日までは。

彼女の処刑が知らされた。町に疫病が流行り、死者が増え続けた。全て西の魔女のせいだと町の人々は言い、この暴動を抑えるために王はやむを得ず処刑を決めたのだ。
彼女にそんな力あるはずない。ただのごく普通の少女なのだから。しかし、人間は脆い。脆すぎたのだ。
行き場のないこの焦りと恐怖を、誰かのせいにし処罰することで安心を求めたのだ。なんて身勝手で傲慢なのだろう。

彼女の処刑執行を聞かされたのは王都の酒場で、仲のいい冒険者から。彼女は処刑されることを知っていたそうだ。昨日彼女に会った時何も言わなかったのに。何故教えてくれなかったんだ。最期の会話だと知っていたら、彼女と過ごす最期の時間だとわかっていたら僕は迷わず彼女の手を引き連れ出してただろう。何処か遠くへ逃げようと彼女に懇願しただろう。
彼女が何をしたって言うんだ。罪を犯したわけじゃない。ただひっそりと生き、人々のために薬草を煎じていただけだ。こんなのあんまりだ。不条理だ。悔しさが込み上げ、涙が溢れ出て止まらなかった。

きっと彼女は、僕には処刑される魔女ではなく1人の少女スノトラとして終わりたかったのだろう。
次生まれ変われるのであれば、こんな不条理な世の中ではなく、彼女が慈しまれ、幸せに包まれた世界で生きれることを願おう。

3/17/2024, 11:20:54 AM

“弔い” (テーマ 泣かないよ)

幼い頃、祖父が言った。「勇者になりたくば、滅多なことで涙を流すでない。常に強く、勇ましくあれ。」
勇者になる為、そう育てられてきた。
いつからだろう。呪文のようにいつも祖父のこの言葉が脳裏によぎる。

勇者になりたいと、自分で望んだわけではない。僕が勇者の孫であり、勇者の息子であるが故のことだ。僕が勇者になると当たり前のように周りは期待し、当たり前のように敷かれたレールの上を僕は歩んできた。
僕の意思なんて関係なく。夢や理想を抱くなんて無駄だ。我ながら幼いながらに、達観していたと思う。いつからか僕は感情を押し殺すことに慣れ、多情多感な人をみると癪に触った。きっと感情を表に出せる人を羨み妬んでたんだろう。
泣くなんて、怒鳴るなんて幼稚で浅はかな人間がやることだ。そう言い聞かせることでしか、自分のこの感情を落ち着かせることが出来なかったからだ。いや、それ以外に落ち着かせる術を知らなかったのだ。この考えが一番幼稚で浅はかだと心のどこかでは分かっていた。だから余計に苛立ち、自分が惨めに感じた。


賢者が死んだ。騎士が死んだ。そして自分の身体を顧みず、僕に回復魔法を使い続けてくれた僧侶が死んだ。
どうしてだ。何故こうなってしまったんだ。どこで間違えた。今の今まで問題なく冒険を続けてきたじゃないか。

僕たちとの戦いで魔王は死んだ。この世界に平和が訪れた。喜ばなければ。いや、喜べるわけがない。仲間が死んだのだから。たった一つの、代わりなんてない、かけがえのない仲間たちが。

騎士は明朗快活でパーティーのムードメーカーだった。話上手でずっと聞いてられるくらいの巧みな話術を持っていた。
賢者は無口だが聡明で、人の機微な感情を汲み取ることが出来た。
僧侶は誰が見ても美人だと口を揃えて言うほどの容姿端麗で、温和な性格の女性だった。綺麗で、でも儚く、フッと吹いた風と共に消え去りそうなほど。
誰一人欠けてはならない。僕の宝物たち。僕の戦友たち。

命尽きる前、賢者は言った「勇者だろ。泣くな。」
騎士が言った「シケたツラすんなよ。笑えよ。」
僧侶が言った「あなたとの冒険は、何にも代えがたい素敵な思い出です。生きてください。あなたはここで死んでいい人ではない。ほら、泣かないで。」と。
僕の頬を伝う涙を、僧侶は今にも力尽きそうな手を延ばしそっと拭ってくれる。
僕は非力だ。勇ましくなんかない。何が勇者だ。なにが英雄だ。今にも力尽きそうな仲間たちを救うことも出来ず、ただ涙を流し逝かないでと願うことしか出来なかった。
幼い子供のように泣いた。声が枯れるまで、涙が枯れるまで。僕がかつて幼稚だと見下した人達のように。自分の感情のままに。

でも君たちが泣くなと、生きろと、そう望むから、願うから、僕はもう泣かないよ。涙でクシャクシャな顔で精一杯笑って見せた。仲間たちはホッとした顔で静かに永い眠りについた。

泣くのは今日で最後だ。一緒に歩んだ旅路に思いを馳せ、精一杯君たちを弔おう。
かけがいのない友人たちのために。
僕ができる最大限の、僕なりの弔い方で。
僕が語り継ごう。君たちの勇姿を。君たちがどれだけ僕よりも勇者に相応しかったかを。