パーティ全滅勇者

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“弔い” (テーマ 泣かないよ)

幼い頃、祖父が言った。「勇者になりたくば、滅多なことで涙を流すでない。常に強く、勇ましくあれ。」
勇者になる為、そう育てられてきた。
いつからだろう。呪文のようにいつも祖父のこの言葉が脳裏によぎる。

勇者になりたいと、自分で望んだわけではない。僕が勇者の孫であり、勇者の息子であるが故のことだ。僕が勇者になると当たり前のように周りは期待し、当たり前のように敷かれたレールの上を僕は歩んできた。
僕の意思なんて関係なく。夢や理想を抱くなんて無駄だ。我ながら幼いながらに、達観していたと思う。いつからか僕は感情を押し殺すことに慣れ、多情多感な人をみると癪に触った。きっと感情を表に出せる人を羨み妬んでたんだろう。
泣くなんて、怒鳴るなんて幼稚で浅はかな人間がやることだ。そう言い聞かせることでしか、自分のこの感情を落ち着かせることが出来なかったからだ。いや、それ以外に落ち着かせる術を知らなかったのだ。この考えが一番幼稚で浅はかだと心のどこかでは分かっていた。だから余計に苛立ち、自分が惨めに感じた。


賢者が死んだ。騎士が死んだ。そして自分の身体を顧みず、僕に回復魔法を使い続けてくれた僧侶が死んだ。
どうしてだ。何故こうなってしまったんだ。どこで間違えた。今の今まで問題なく冒険を続けてきたじゃないか。

僕たちとの戦いで魔王は死んだ。この世界に平和が訪れた。喜ばなければ。いや、喜べるわけがない。仲間が死んだのだから。たった一つの、代わりなんてない、かけがえのない仲間たちが。

騎士は明朗快活でパーティーのムードメーカーだった。話上手でずっと聞いてられるくらいの巧みな話術を持っていた。
賢者は無口だが聡明で、人の機微な感情を汲み取ることが出来た。
僧侶は誰が見ても美人だと口を揃えて言うほどの容姿端麗で、温和な性格の女性だった。綺麗で、でも儚く、フッと吹いた風と共に消え去りそうなほど。
誰一人欠けてはならない。僕の宝物たち。僕の戦友たち。

命尽きる前、賢者は言った「勇者だろ。泣くな。」
騎士が言った「シケたツラすんなよ。笑えよ。」
僧侶が言った「あなたとの冒険は、何にも代えがたい素敵な思い出です。生きてください。あなたはここで死んでいい人ではない。ほら、泣かないで。」と。
僕の頬を伝う涙を、僧侶は今にも力尽きそうな手を延ばしそっと拭ってくれる。
僕は非力だ。勇ましくなんかない。何が勇者だ。なにが英雄だ。今にも力尽きそうな仲間たちを救うことも出来ず、ただ涙を流し逝かないでと願うことしか出来なかった。
幼い子供のように泣いた。声が枯れるまで、涙が枯れるまで。僕がかつて幼稚だと見下した人達のように。自分の感情のままに。

でも君たちが泣くなと、生きろと、そう望むから、願うから、僕はもう泣かないよ。涙でクシャクシャな顔で精一杯笑って見せた。仲間たちはホッとした顔で静かに永い眠りについた。

泣くのは今日で最後だ。一緒に歩んだ旅路に思いを馳せ、精一杯君たちを弔おう。
かけがいのない友人たちのために。
僕ができる最大限の、僕なりの弔い方で。
僕が語り継ごう。君たちの勇姿を。君たちがどれだけ僕よりも勇者に相応しかったかを。

3/17/2024, 11:20:54 AM