なまえのないひと

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3/28/2024, 2:53:10 PM


何のために生きるのか、

答えられる大人に、私は結局出会っていない。


大抵の人間が、目標なんて持っていなかった。

当たり前に明日が来ることを、
その明日が、平然としたものであることを

ただ今日と変わらぬ1日であることを、望んでいる。


───なんて強いのだ、と思った。


生きることに理由がなくても、
当たり前に進んで行ける。

意味がなくても、明日へ向かえる。


よほど私は、そういう大人になりたかった。


どうして怖くないのですか
今生きているのに、理由がついていないこと。

なぜ不安でないのですか
明日が来ても、この存在に意味などないこと。



優しい君よ、
愛と勇気を携えた君よ、
どうかそれを問わないでくれ。

その瞳がこちらを見つめるたび、私は想う。



君が生きていく明日に、理由なんて探さなくて良い。

誰のためでもない、君だけの明日を生きること
どうか君に、許してやってくれ。

3/20/2024, 5:30:51 PM

音もなく消えてしまいたい夜がある

痛みも苦痛もなく、
誰かの迷惑にもならないように。

線香花火が落ちるみたいに、
ふっとなくなってしまえたらと。


この世に必要なひとって、一体誰なんだろう。


その人が最初から存在していなければ

それはそういうものとして、
きっと世界は回っていく。


存在していなければならないひとって、誰なんだろう。

どうしたらそれに、なれるんだろう。


不要なひとを知ったら、
消去法で分かるのかな。

でもそれが、自分だったら悲しいな。

消えたいくせに、矛盾だらけだ。



かすかな街の灯りが揺れる。


───明けるだろうか。

この、不安定で、朧げな夜が。

3/18/2024, 1:28:53 PM

この世界はいつだって弱い者に優しくない。

発言できる強さを持った者の言葉しか、そもそもこの世には生まれない。
ひとのために飲み込んだ想いは、いつだって誰にも気付かれない。

個性が尊重される時代だって言ったって
結局は、自分を主張する勇気を持てた人間のためだけのスポットライト。

あるはずなのに。

明日の誰かの笑顔のために、
大切なものを守るために。

自分を殺すことを選んだ心が。


どうしようもなく脆くて、尊ばれるべき愛が。



笑いたくないのに笑う君へ

この不条理な世界の中で
どうか明日が、君に優しくありますように。

11/30/2023, 2:46:54 PM

その涙がこぼれ落ちるより早く、気づいたらもう抱き寄せていた。
腕の中で、"ウ"とも"ワ"とも取れるような声を漏らす園田さん。

困らせている。
分かっているのに、その理性とは裏腹に、腕にはどんどん力が入っていった。

「……あ、の、深山くん」
「……やめろよ、もう」
「……え」

───知っているんだ。

いつも穏やかに笑う彼女が、本当は誰より傷つきやすいこと。

「あんな人のために、心も涙も使うの、やめろよ」

人の痛みに敏感で、嘘をつくときはいつだって誰かのためで。

「……あ、のね。私、大丈夫だよ。ちょっと、ネガティブになっちゃっただけで」

ほら、また、今も。

「……そんな顔で泣いてるやつのどこが、大丈夫なんだよ!」
「っ……」

泣かないで欲しい。笑って欲しい。
羨まれるくらい幸せに包まれている方が、この人にはよっぽど似合う。

「もっと大事にされてろよ」
「……してくれてるよ」
「デートすっぽかして一人にして、泣いてる時にそばにいないやつが、いつ大事にできるんだよ!」
「っ、」

最悪だ。
こんなの駄々こねた子供と同じだ。

感情的になって、傷えぐるような事言って。

こんなんだから、どうしようもない男なんかに負けるんだ。

「……ありがとう、深山くん」

……それなのに、この人は。

「私のために、怒ってくれて。ありがとう」

こんなくだらない感情吐露に、
プレゼントを貰った時みたいな笑顔を見せるから。

「───」

泣かないで欲しい。
けど、でも。

どうしてもその涙も含めた上で、今の自分でありたいと言うのなら。

「……泣くなよ、一人で」

どうか、せめて、

「悲しいときは、俺を呼んで。一人で泣かないって約束して」

俺だけはこの人のこと、
俺の全部で大切にしたい。

「……深山くん」
「声、大きくしてごめん」

首を小さく横に振り、ゆっくり微笑む園田さん。

「……ありがとう」

俺を映さない、優しい瞳だと思った。