#遠い日の記憶
昨日、山にカブトムシを取りに行くんだ!と期待に胸を膨らませ、意気揚々と山へ罠をしかけに行った少年を見かけ、私はその少年に昔の自分を重ねた。
自分もああやって期待に胸を膨らませ、カブトムシを捕まえに山へ行っていた時期もあったなぁ。と大人どころか初老という言葉が似合う歳になった私は遠い日の記憶を呼び起こした。
木の幹に少しだけはちみつを塗り、罠を仕掛ける。
そんな記憶を呼び起こしたからだろうか。その時の少年心がみるみるうちに、心の底から顔を出した。
明日は久しぶりに孫でも誘ってカブトムシを捕まえに行こうか。
きっと楽しい一日になる。そう思うとワクワクが止まらなかった。
#空を見上げて心に浮かんだこと
幼い頃、空に浮かぶ雲は誰かが描いたものだと思っていた。
自分よりも何倍も大きな大きな人が、大きな画用紙いっぱいに青い絵の具を垂らして、白い絵の具で雲を描く。
そして、描き上がったら空に画用紙を広げる。
でも、自分からそんな場面は見えなかったから、きっとお空の上でそういうお仕事をしている人が居るのだと思っていた。
それを今日の青空を見て思い出した。
あの時は純粋だったな。
大人になって、要らない知識も増えた自分ではもう考えられないその思考に、あの時の純粋さが眩しくて、少し寂しくなった。
#終わりにしよう
さぁ、終わりにしようか。
俺の前で刀を構えてそう言った男は、スタスタとこちらに近づいてくる。
俺が、俺が何をしたって言うんだ!!
ただいつも通り終電で帰ってきたら、家の中はぐちゃぐちゃで、愛しの妻も子供も物を言わぬ亡骸になっていて、この男が1人、血の海の中に立っていた。
出来ることならば、こいつに一矢報いたかった。
ごめんな、お前たち。こんな不甲斐ない男がお前たちの家族で。
もしも、来世があるならば、また家族になって欲しい。
そこで俺の意識は途切れたのだった。
#手を取り合って
これからは僕ら2人手を取り合って生きていこう!
そんな言葉で終わる物語を見かける度、楽しんでいたはずなのにスっと冷めてしまう。
あぁ、なんてつまらない言葉なんだろう。
手を取りあったところで、相手と自分は別の人間なのだといつ、どこで気づくのだろうか。
そこで離れることになることだってあるだろう。
だからか。今言葉にする為に、頭の中を整理してわかった。
手を取り合う。その言葉は僕にとって意味をなさないんだ。
だって、裏切られてばかりの人生だから。
手を取り合うという行為の意味が、言葉の重みが感じられないんだ。
#優越感、劣等感
みんなの人気者、でも友達を作らない君と友達になれた事で僕を見下してた人間たちへの優越感に浸ってた。
だけど、君は勉強も運動もできて、性格まで良くて、友達が少ない理由も、大切な友人1人1人を大切にしたいから、だなんて照れ臭そうに笑った君を見て僕はなんて浅ましいのかと、劣等感を感じるようになったんだ。