#繊細な花
花はどれもこれも繊細で、ボクがしっかりお世話をしないと枯れてしまう。
だから、毎日毎日愛情を込めて花の世話をする。
そうするとお礼、とでもいうように綺麗に咲いてくれるからやり甲斐もある。
ボクにとっては彼女も同じ。
ボクの愛情で綺麗な笑顔を咲かせるのを隣で見られるのが幸せなんだ。
でも最近、君はボクの前で笑顔を見せてくれなくなったね。
何でだろう。
君の笑顔が見れない事がこんなにも苦しい。
ねぇ、君の笑顔が見たいんだ。どうすればまた笑ってくれるのかな。教えてよ、、。
――これはいつまでも彼女が死んだことを受け入れられない男の話。
#1年後
1年前の今日、僕は君を街で見つけた。
背筋を伸ばして、街をひとりで歩く君はかっこよくて、美しくて、とても目を奪われたことを覚えているよ。
それから君を何度も何度も街で見かけて、もしかしたら運命かも?なんて思ったけど、先月、君を見かけた時にその思いは粉々に砕かれた。
君が他の男の隣で、その美しい顔を綻ばせながら腕を組みつつ歩く姿。
それを見る事は何事にも耐え難い苦痛で、つい顔を覆って臥せってしまった。
けれど、やっと今日、君が僕のものになった。
1年、1年だよ。君を見つけてから思いを伝えるまでに掛かった月日。
でも、恋愛は時間が掛かれば掛かるほど相手を愛おしく思う気持ちが増していくんだね。
君のおかげで知ることが出来たよ。ありがとう。
これからはずっとずぅっと傍に居てね。
男はそう言って、目の前の既に息をしてない女に口付けと抱擁を贈った。
#子供の頃は
子供の頃はこのまま大きくなれば、大人になれて、誰かと付き合ったり、結婚したり、子供を産んで育てたり。
そんなことが当たり前だと思ってた。
だけど今の自分はどう?
大人になんてなれてない。中身は子供のまま。体だけ大きくなった。
誰かとなんて付き合ってない。私の恋人は2次元のキャラクター。
結婚も子育てもした事なんてないし、したいとも思えない。だって今のままで十分幸せ。推しがいるもの。
ふふふ、ふふふ。
可哀想。可哀想、夢も希望も無くなって、怠惰に日常を過ごす、こんなのが将来の自分の姿だというのだから。希望に満ちた瞳をしたあの頃の自分が哀れでならないわ。
でもね、子供の頃はきっと幸せだったけど、今の自分もきっと幸せなのよ。
だって、自死を選んでいないもの。
#日常
どれが好き?と聞かれたからあれが好き、これが好きと答える。
だけど、私の好きは他の人にとってはおかしいものらしく、意味わからない。気持ち悪い。どういう趣味してるの?と否定の嵐。
それなら聞かなければいいのに。とは思うけどきっとそれで自分の鬱憤を晴らしているのかと思うと少し哀れに思える。
けどね、毎日毎日否定ばかりされては私だって疲れるの。
だから決めたよ。私はもうここから居なくなる。
遺書を用意して、住んでる地区の中で一番背の高いビルに登る。
ビルの屋上で靴を脱ぎ、遺書を置き、フェンスを越える。
さぁ、最期は誰にも否定はさせない。
自分の運命は自分で決めるんだ!
――バイバイ今世。こんにちは来世。
#好きな色
昔はピンクとか水色みたいな淡くて可愛らしい色が好きだった。
だけど、その時好きだった人にお前には似合わないって言われて、好きの気持ちは涙と一緒にサラサラと流れて消えてった。
今は黒とか白みたいなモノクロな色が好き。
この好きっていう気持ちが、本物なのか、幼い頃の自分が無理やりに作った感情なのか。今となっては分からないけれど。
でも、でもね。もしも今の私があの頃の自分に声を掛けるなら、好きなものは好きで良いんだよって伝えてあげたいな。
だってその好きって言う気持ちは尊いものだから。
大人になったら好きなものを好きって言うことさえ憚られる。
それなら幼い頃くらい好きって言う気持ちを大切にしても良かったと思うの。
ねぇ、あなたはそう思わない?
彼女はそう言って儚げに笑い、僕の返答を待たずにビルの屋上から地面に吸い込まれていった。