夜空を見上げると、満天の星が僕らを見守っている。
まるで落ちてきそうなほどに雄大で、少し怖くもなる。
ふと振り返ると、君が星と同じくらい目を輝かせて、空を見上げている。
除夜の鐘が鳴り響く。
時計の針が0時を指す。
それと同時に、見上げていた夜空に花火が打ち上がる。
君がこちらを振り返って笑った。
「今年もよろしく」
『星に包まれて』
意識が薄れ、途切れていく。
周囲が何か騒いでいるような気がするけど、もうわからない。
たぶん、本当は大声で何か言い合っている。自分に声を掛けてくれている。
でも、もう何もわからない。
うるさいはずの現場で、それでも静かになっていく。全てが溶けていくように。
そうしてとうとう、意識を手放した。
『静かな終わり』
狭い狭い箱の中。ただひたすらに揺られている。
何も見たくないと、何も聞きたくないと。
身動きが取れない狭い空間に、時折覗くのは、隙間から射し込む陽の光。
こんなにも身動きが取れなくなったのは、いつからだったろう。遠い昔だったような気もするし、つい最近だった気もする。
私の旅路はとても視界が開けていて、広く長く続く道とそれを照らす光が存在していた。見えない明日に心を弾ませて。たまに怯えることもあったけれど。
それなのに、いつからか、この箱の中に閉じ込められていた。明日も何も、わからなくなっていた。
箱が大きく揺れた。
ここは、外の様子が見えなくて、怖い。
出して。いや、出さないで。
箱の薄い壁を掻き毟る。
その壁は、本当にそこにあるのかさえもよく分からない。
私は、何処へ向かおうとしているのだろう?
私は、何に捉えられているのだろう?
暗闇に包まれた箱の中。
壁を掻き毟るのをやめ、静かに目を閉じると、更なる暗闇が襲ってくる。
このまま暗闇に身を投じて、何も知らないままでいれば、もう傷付くこともないのだろうか?
それならばきっと、この箱は、私の心を護る唯一の殻だから。
この箱の向こう側のことなんて、もう知らないままで、このままで――。
勝手に何処かへ運ばれて、勝手に何処かへ辿り着く。そんな旅路で構わない。
再び箱が大きく揺れて、突然高く放り出された。
ひっくり返って体をしこたま打ち付ける。
蓋を開ける勇気はない。
死ぬのなら、このまま何も知らないまま死にたい。
そう思うのに、箱の蓋が、誰かの手によって開けられようとしていた。
怯えた私は、その腕を力いっぱい掴んだ。
それでもその腕の力には敵わなくて、蓋は開けられてしまった。
暗闇ばかり目が慣れていた私には、一瞬、眩し過ぎて分からなかった。
開いた箱の外側。
最初に目に入ったそれは――遠くて高い、青い空だったんだ。
『心の旅路』
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰だ?」
「それは女王様でございます」
いつもの質問。いつもの解答。
女王はこの答え以外は求めていない。この答え以外を発することは許されない。
真実を映せない鏡はどんどん凍っていく。
本当は、世界で一番美しい人は身近に別にいた。
知っていて、それでも語ることはできなかった。
「あら、美しい鏡ね」
ある日、その美しい人が、部屋に入って鏡を見つけた。
「少し曇っているわね」
その美しい人は、自分の服の袖で鏡を磨いた。
白く曇っていた鏡は輝きを取り戻し、凍っていた心は溶けていくように感じた。
「これでよし」
美しい人が笑う。
もう噓は吐けなかった。
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰だ?」
「それは――」
温かさを知る鏡は曇りなく、真実を映し出す。
『凍てつく鏡』
しんしんと雪が降り積もる。
夜も更けて辺りは暗いのに、カーテンを開けると、雪が部屋の灯りを反射して、辺りが輝いた。
静かだなぁ……。そして窓から伝わる冷気が寒いな……。
もう寝よう。暖かい部屋で、猫を抱きかかえて。
『雪明かりの夜』