お題『だから、一人でいたい。』
主様を怒らせてしまった。
昨日までお風呂のお手伝いをしていて、そのつもりで今夜も……と思っていたのが大間違いだったのだ。
「フェネスの馬鹿! 私だってそろそろひとりで入れるもん!!」
俺にはデリカシーというか配慮というか、女性の心の機微を察知する能力が欠如しているのかもしれない。
反省点は日記に書いて二度としないようにしないと。
『もしかしたらこれを機に担当を代えられるかもしれない。そしてもう二度と担当に戻してもらえないかもしれない……』
そう記していたら眼鏡の視界が歪んできた。
「はぁ……俺ってなんてダメな奴なんだ……」
ペンを置き、頭を抱えていると書庫に誰かがやって来た気配がした。
「フェネスさん」
衣装係のフルーレだった。
「あの、相談というか……主様のお召し物のことなんですけど」
フルーレが俺に服の話をしてくるなんて珍しい。しかし頼られている気がして、少しだけ気持ちが上向いた。
「主様のお召し物がどうしたの? フルーレ」
「最近胸周りがキツそうなので新しい服を作るために採寸を……と思ってさっきお部屋に伺ったら、馬鹿と言われて締め出されて……俺、何か間違ってたんでしょうか?」
なんだ、フルーレもだったのか。
「俺もだったんだ」
「えっ、フェネスさんも?」
ふたりで頭を悩ませていたけれど、ふとある言葉を思い出した。
「思春期……かもしれない」
「あぁ……なるほど、そうかもしれませんね……」
主様に思春期が訪れたのであれば納得がいく。しかし、そうとなればどう接したものか?
「分からないので主様に直接窺いましょう」
「え! フルーレ!?」
鼻息も荒く意気揚々と主様の部屋に向かおうとするフルーレの後を慌てて追いかけた。
そして。
「だから、ひとりでいたいって言ってるでしょ!? フルーレとフェネスの馬鹿ぁ!!」
分かってはいたけれど、ショックもそれなりだ。
主様の思春期……これは、手こずりそうだなぁ……。
お題『澄んだ瞳』
※保留
お題『嵐が来ようとも』
※後ほど
お題『お祭り』
※後日更新予定
お題『誰かのためになるならば』
主様のためになるなら、何でもしたいと思っている。誰かと争うことは好きじゃないけど、それが主様のためなら俺は戦おう。
俺が誰かのためにそう思うのは、もしかしたら初めてのことかもしれない。みんなの手伝いをするのは、自分のためにやっていることだ。承認欲求を満たすために感謝されるようなことをしてきた。
本当の俺はとても身勝手で感情的な、どうしようもない奴なんだ。
そのどうしようもない俺を救ってくださったのは前の主様と今の主様だと思っている。
「主様、ありがとうございます」
水分補給用のハーブ水をグラスに注ぎながら、つい唐突な感謝の言葉が口から溢れてしまった。
「なぁに、フェネス」
「いえ、何でも! 主様のお顔を見ていたら、つい言いたくなってしまって……」
驚いた顔をしていた主様は、ふふ、と笑っている。
「変なの、フェネス。私の方が言わなきゃいけないのに。お水、ありがとう」
ああ、この笑顔のためなら、俺は何だってしよう——そう決意を新たにした。