お題『だから、一人でいたい。』
主様を怒らせてしまった。
昨日までお風呂のお手伝いをしていて、そのつもりで今夜も……と思っていたのが大間違いだったのだ。
「フェネスの馬鹿! 私だってそろそろひとりで入れるもん!!」
俺にはデリカシーというか配慮というか、女性の心の機微を察知する能力が欠如しているのかもしれない。
反省点は日記に書いて二度としないようにしないと。
『もしかしたらこれを機に担当を代えられるかもしれない。そしてもう二度と担当に戻してもらえないかもしれない……』
そう記していたら眼鏡の視界が歪んできた。
「はぁ……俺ってなんてダメな奴なんだ……」
ペンを置き、頭を抱えていると書庫に誰かがやって来た気配がした。
「フェネスさん」
衣装係のフルーレだった。
「あの、相談というか……主様のお召し物のことなんですけど」
フルーレが俺に服の話をしてくるなんて珍しい。しかし頼られている気がして、少しだけ気持ちが上向いた。
「主様のお召し物がどうしたの? フルーレ」
「最近胸周りがキツそうなので新しい服を作るために採寸を……と思ってさっきお部屋に伺ったら、馬鹿と言われて締め出されて……俺、何か間違ってたんでしょうか?」
なんだ、フルーレもだったのか。
「俺もだったんだ」
「えっ、フェネスさんも?」
ふたりで頭を悩ませていたけれど、ふとある言葉を思い出した。
「思春期……かもしれない」
「あぁ……なるほど、そうかもしれませんね……」
主様に思春期が訪れたのであれば納得がいく。しかし、そうとなればどう接したものか?
「分からないので主様に直接窺いましょう」
「え! フルーレ!?」
鼻息も荒く意気揚々と主様の部屋に向かおうとするフルーレの後を慌てて追いかけた。
そして。
「だから、ひとりでいたいって言ってるでしょ!? フルーレとフェネスの馬鹿ぁ!!」
分かってはいたけれど、ショックもそれなりだ。
主様の思春期……これは、手こずりそうだなぁ……。
7/31/2023, 2:10:05 PM