にえ

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7/10/2023, 12:22:07 PM

お題『目が覚めると』

 数十年ぶりに熱が出た。それから、頭痛と咳。医療係のルカスさんから風邪のお墨付き(?)を貰い、主様の担当執事を誰かに代わってもらって本格的に寝込むこととなってしまった。
 正直、主様の担当は誰にも譲りたくない。だけどミヤジさんから言われてしまった。
「主様にうつしてはいけないよ」
 それはもっともなことだと思い、夏だというのに布団を引きかぶって枕に頭を預けた。

 しばらくすると咳止めの薬が切れたらしく、喉のいがらっぽさが不快で目が覚めた。どれくらい眠っただろうか。
 ぼんやりしたまま寝返りを打てば、体中の関節という関節が悲鳴を上げた。ここまでの風邪は百六年ぶり。頭痛もしてきて、泣きたくもないのに涙が滲んでくる。ルカスさんのところに行って追加の薬をもらってこようと起き上がったら、まっすぐ立てなくてヨロヨロしてしまう。
 キィ、と扉が開いた。同室の執事が帰ってきたのかと思ったら、料理人のロノが入ってきた。
「フェネスさん! 何やってるんですか!?」
 脇を支えられてそのまま再びベッドに押し込まれそうになったけど、あまりにも汗をかきすぎていて気持ち悪い。
「ロノ、悪いんだけどそこの戸棚からタオル取って……」
 掠れた声しか出てこない。でも伝わって、小机に何かを置くとロノは戸棚に手を伸ばしてくれる。そうして無事タオルを手に入れることができた。
「シーツまでぐっしょりですね……交換するんで待っててください」
 一旦椅子まで運ばれて、そこでまたぐったりしかけたところで、それが目に留まった。
 スライスレモンとミントのウォータージャグだ。水分不足を心配したロノが用意してくれたんだろう。俺はありがたく貰うことにした。
 ひと口飲み込んで、顔をしかめてしまう。水を飲んでも喉が痛い。
 本当に治るのか不安になってきた。
 ロノがナックを呼んできてくれてベッドのシーツはきれいなものと取り替えられた。パジャマもなんとか着替えて、薬をもらって再び寝床で目を閉じた。

 主様が知らない奴らに攫われそうになっている光景が見えてきた。俺は追いかけたいのに脚がもたついて、全然追いつけない。
 主様! 主様! 必ずお助けしますから……でも俺なんかに主様をお助けするなんてことはできないのかもしれない……。
 眼尻を、涙が伝う。
 ——主様——

 きゅっと、手を握られる感触。
 大丈夫よフェネス。
 姉さんにそう言われた気がして、目を開けた。
 しかし……そこに居たのは姉さんではなく、主様だった……。
 頭がうまく働かない。でも、主様は確か、俺のそばにいてはいけないんじゃなかったっけ? 
 ぼんやりしていると、さらに強く手を握られた。
「弱っているときってひとりでいるとさみしいでしょ。だから私がそばにいてあげるから。フェネス、だいじょうぶ、だいじょうぶ」
 そこに、ノックが聞こえてきた。
「やばっ! ハウレスをふりきったのに!」
 辺りを見回した主様は、あろうことか俺のベッドに潜り込もうとする。
「あ、主様!?」
 俺が慌てて声を上げて、喉が痛くて咳き込んでいると、ドアが開いて案の定そこにはハウレスが。ハウレスは俺の掛け布団からお尻だけ出ている主様を見つけたのだった。
「主様はフェネスのために飲み水を用意したではありませんか?」
「……フェネスがしんぱい」
 そのお心遣いは嬉しかったけれど。
「主様、ハウレスの言うことを聞いてください」
「でも……」
 そうだ。主様に、俺はお礼を言わないと。
「ありがとうございます。お水、美味しかったです」
 主様のまろい頬をひと撫でして、
「主様が、俺を助けてくださったので、次は俺がお助けします。必ず。だから、ハウレスの言うことを聞いて、ください」
 主様がハウレスと出ていくのを見送って、俺は再び目を閉じた。

 後日。
 俺が元気になった頃、同室のハウレス、ボスキ、アモンの三人がダウンした。
 幸いなことに主様にはうつっていなくて、でも三人の世話で手が回らなくなり、主様の担当に戻るまでまたしばらくかかったのだった。

7/9/2023, 1:00:07 PM

お題『私の当たり前』

※忙殺中につき一旦寝かせます。

7/8/2023, 11:08:44 AM

お題『街の明かり』

※多忙につき一旦保留。

寝かせているお題はいずれ一気に更新します。

7/7/2023, 11:38:29 AM

お題『七夕』

※少し寝かせます

7/6/2023, 1:57:51 PM

お題『友だちの思い出』

 主様のお友だちについて、俺にはいまだに引っかかっていることがある。

 主様と名前を呼び捨てにしあっていた、あの少年のことだ。

 ずっと近く、どの執事たちよりも間近にお世話をしてきた俺ですら、主様を呼び捨てにしたことはないというのに。なのになのに、あの少年は軽々とそれを越えてきた。
 この気持ちは嫉妬だけではない。その少年への羨望もあると思う。もし俺がもう300歳以上若くて街の少年だったら、その機会もあったかもしれない……

 ……いや、だめだだめだ、もしそんなことになったら俺は主様のお世話というある意味特権を失うことになる。落ち着け、俺。
 でもこういう、主様に対して特別感がないと自分のことに自信が持てないなんて、俺って小さい奴だよな……。

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