※10年後の私から届いた手紙 保留
いつかまた、この場所で。
あなたと会える日が来たら。
春めく景色の中、はしゃぐ君を見て、笑える日が来たら。
どうかその時は_____
私の名前を、また呼んでくれますか。
別に、私はいい子でいなくちゃいけない存在ではない。
なくてはならない存在でもない。
なんせ、うちには優秀な長女がいるのだから。モデルのような容姿と、優秀な頭脳と、温和な性格を持つ、絵に描いたような「いい子」が。
そう気づいてからは、なんだか気楽だった。時々ちょっとだけ寂しくなったりしたけど、変に期待されることもないから、割と好き勝手してたように思う。
とにかく私は、姉の邪魔にさえならなければ、両親や親戚の目に入ることもなく、平和に生きていける。
目の前には、卒業証書と花束を持ち微笑む姉。それを褒め称える両親。
あーあ、終わったな。私の平和な時間が。
今度は私の番だ。親元を離れる姉に変わって、「いい子」でいなければならない。
やだなあ。もうちょっと「出来損ないの妹」でいたかったんだけど。
姉妹揃って優秀ねぇなんて、言われても嬉しくねえよ。
誰とも本気で関わらない。関われない。
怒られたら面倒だから。平和な方が楽だから。
みんな私に、「良い子」でいてほしいでしょう?
そうやって、生まれた頃から怠け者だった私は、人と本気で付き合うことさえ怠けて生きてきた。
「どうして君はいつも笑っているの?もっと怒ってよ。泣いてもいいんだよ!」
沢山の人にそう言われて、今度は私は、存在しない「本音」を話すようになった。
声を震わせて、涙なんか浮かべてみちゃったりして。
分からない。この人は私に何を期待しているの?
私の中身は空っぽだ。もう随分長いことそうだったから、今更本音も何もない。
何もかも面倒になって、それでも私は私でいることを辞められやしない。
今日も私は、いつも通りに明るいスマイルを、誰彼構わず振り撒いた。
通知の欄を開いた私は、小さく眉を顰めた。
目に飛び込んできたのは、今日のお題「Kiss」の文字。
キス、ですかぁ…。
かれこれ14年と少し生きてきた中で、私はキスらしいキスをしたことがない。したいと思ったこともない。
この年齢になると、やれ誰と誰が付き合っただとか、デートをしていただとか、はたまたキスをしたらしいだとか、そんな噂が日常的に耳に入ってくる。がしかし、その大半は私の耳に入って、そのまま脳内のダストボックスに入れられる。
でも、キスをしたらどんな気持ちになるのか、はちょっと知りたい。人間観察、的な意味で。やっぱり幸せな気持ちになるもんなのかな?というかキスをする意味って一体なんなんだ?
好奇心は猫をも殺す、という。その時が来たら、自分で確かめるだけだ。
ロマンのかけらもない文章でごめんなさい。てこさきで小洒落た文章を書くよりはいいかと思いまして…笑