春休み
母親からお留守番を頼まれた私は
窓の向こうから聞こえる
鳥のさえずりに誘われて
広いベランダに出た
今日も絶好の日向ぼっこ日和だな
そしていつものように
子供部屋から持ち出した掛布団を2つ折にして
ベランダに敷き、仰向けに寝転んだ
布団のぬくもりと
太陽のあたたかさとの間で
私は地球と一体になった
これでいいと思った
目の前には
画用紙の端っこまでうす水色で染めたような
張り付いた空が広がっている
じっと見ていると
段々と上下が分からなくなってくる
このまま重力が逆さになれば
私は空へ落ちてしまう
高いところから下を覗き込んだような
そわそわした心地が大好きだった
自分だけが知っている世界だった
しばらくすると
母親の「ただいま」の声が聞こえた
私は慌てて布団を戻し
何事もなかったように「おかえり」と出迎えた
𓏸︎︎︎︎𓈒 𓂃快晴
初めて母になった日
テレビでよく見る
ドキュメンタリーの
子を守る雌ライオンの姿を思い出した
エジソンや
アインシュタインよりも
凄いのは母だと思った
そして
その母業を
誰よりもこなしていたのは
私の母だったことに
ようやく気付いた
だからこそ
お母さんの味噌汁は
誰よりも美味しいんだよなぁ
𓏸︎︎︎︎𓈒 𓂃誰よりも、ずっと
桜を眺めていた
亡き曽祖父が植えた見事な一本桜を
ある年は
まだ若かった両親や幼かった兄妹と
ある年は
共に青春を謳歌した旧友と
ある年は
永遠を誓って去っていった元恋人と
そして今年は
いつの間にか大きくなった息子と
まだ小さな娘と
桜はまた一つ年輪を重ねて
私たちを見守るように満開になった
三色団子を嬉しそうに頬張る子供たちと
散ってゆく花びらを眺めながら
この幸せな時が止まれば良いのにと願う
𓏸︎︎︎︎𓈒 𓂃ずっとこのまま
くたびれたシャツ
崩れたメイク
脱ぎたいハイソックス
一日が沈んでゆく
茜が滲みる帰路のハイウェイ
𓏸︎︎︎︎𓈒 𓂃沈む夕日
柔らかな細い髪
太陽のにおい
ちいさな手のひら
シロツメクサと天道虫
ピンクの花の蜜の味
雨のあとの虹のふもと
あなたの透き通った瞳に映る世界は
今日も色鮮やかに輝いている
𓏸︎︎︎︎𓈒 𓂃虹色の瞳