胃弱

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5/3/2026, 9:29:54 AM

 この街には、昔懐かしいという言葉がよく似合うパン屋があった。
 
 僕は小さい頃からよくそこへ行って、必ず塩パンを買う。
 なぜ、塩パンを買うかって?そりゃあうまいからさ。
ここの塩パンは、どんなパン屋よりも群を抜いて美味しいんだ。
 小さい頃に母さんが買ってきてくれてから、長年のファンになったって訳さ。

 店主のおじさんは、優しくて、僕が来るとニコッと笑って軽く世間話をしてくれる。
店主の奥さんは、よくパンをサービスしてくれて、二人とも本当に良い人なんだ。

 だけど、ある日
 大好きな塩パンが不味くなった。

 いつもパンを作る店主が変わった訳じゃない。
 強いて言うなら、店主の奥さんが行方不明になったらしい。
警察も動いているが手がかりは一切出て来ず。だから捜査は難航しているらしい。

 店主も最初はパン屋を休み、奥さんを探していた。

しかし、捜査が難航していくに連れて、店主も塞ぎ込むようになった。
見兼ねた街の人達は、店主に少しでも元気になってもらうために色々な話をしてあげた。
そのうち、もしかしたら貴方が焼くパンの匂いに寄せられて戻ってくるかもしれない。と言う者が現れた。

店主は、その言葉に惹かれ
いつもやっていた通りにパンを焼くことになった。

久々に営業し始めたパン屋には
沢山の人が押し寄せた。
 
大丈夫だった?
奥さんならきっと大丈夫よ!
ここのパンを食べると元気が出るんだ!

など沢山の励ましの声で溢れていた。
どのパンも変わらず美味しい。 

なのに
何故か塩パンだけが不味い。

周りの人からもあそこの塩パンってあんな味だったっけ?という疑問の声が聞こえていた。

僕は、きっと奥さんのことが心配で
塩パンの作り方を間違ってしまったのかと思った。

だけど、何日来ても味は変わらず不味いのだ。

流石にここまで来ると、心配よりも興味が勝ってしまう。
僕は、店主にそのことについて聞くことにした。

世間話の中でオブラートに包みながら
「ねぇ、おじさん。相変わらずここのパンはとても美味しいよ。」
「ところでさ、塩パンなんだけど…作り方とか変えたの?ま、前より少し味が違う気がしてさ」
 
ついつい、目を上に上げてしまう。
恐る恐る正面にいるおじさんをチラリと見つめる。

初めて見た。
あんな顔の店主は。

怒っているとも言えないし、悲しんでるとも言えない。なんとも言えない顔。
瞳も少し揺れているような気がした。

「ご、ごめんなさい。奥さんのこともあったのに変なこと聞いちゃって」

すると、店主はハッと目を開き、慌てたように口を開けた。
『すまないね、すぐに答えられなくて。塩パン、美味しくないよな…』

予想外な答えだった。
店主の口からその言葉が出るのは。
店主は続ける。

『自分でもね、よく分からないんだ。味覚がおかしくなった訳じゃない。塩パン以外はいつも通りなんだ。でも、何故か塩パンだけがどうしてもあの味にならないんだ。もちろん、レシピ通り作ってる。工程に狂いはない。』
店主は頭を抱え、うぅと唸る。

『妻は、君と同じでこの塩パンが大好きだったんだ。毎朝のように貴方の塩パンが食べたいと言っていた。自分も塩分に気をつけなさいって医者から言われただろう?と返す日々。何気ない。それが自分にとって幸せだった。』

『なぁ、○○君。妻は、大丈夫だろうか。ずっとずっと彼女を探しているんだ。どこにもいない。夢にだって出てこない。もう、私は限界なんだ。
パンを作ることはもちろん好きさ。
でも、隣に妻がいる人生のほうがそれの何百倍も好きなんだ。』
店主は、ポタポタと涙を流しながら、嗚咽と共に言葉を吐き出した。

それを見ているこちらも段々心が苦しくなり、自然と涙が出てきた。

「おじさん、大丈夫だよ!奥さん絶対無事だから!きっと、おじさんの美味しい塩パンが食べたいって警察の人と話してるかもしれない!帰ってくるよ!必ず!」
僕は、店主に出来るだけ慰めの言葉を掛けた。

店主も嗚咽混じりで、ありがとうありがとうと言っていた。

僕は、おじさんに会釈してそのまま家に帰った。
家には誰もいない。
独り暮らしは、やっぱり少し寂しいな。

でも。
チラリと暗い部屋で唯一光を照らすパソコンを覗く。
それを見て、ニコッと笑う。

1週間後、あのパン屋は潰れてしまった。
店主は、首を吊って亡くなっていたところを警察が見つけたらしい。
街の人達は、悲しい気持ちでいっぱいだった。

僕は

やっぱりかと思った。

最後まで、あの塩パンは不味いまま。

あの店主も酷かったな。
精神的に病を患っていたとはいえ、奥さんを

殺しちゃうなんて。

僕は知っている。

隠しカメラって知ってる?
僕はそれをあのパン屋の厨房に仕掛けたんだ。
なんでかって?
だって、つまらなかったんだもん。

優しい二人。
裏が無いわけない。
だから、夜な夜な忍び込んでカメラを仕掛けてみた。

そしたら、案の定
あの二人は普段からケンカばっかしてる。
外面だけは優しい夫婦。
でも、内面は仲が凄く悪い夫婦ってわけ。

あの日は、特に酷かった。
いつもより激しくケンカしてたなぁ。
それで、店主が勢いよく奥さん目がけて包丁刺しちゃうんだもん。
久々に興奮したよ。

それで、頑張ってそれを綺麗さっぱり処理して、
始まったのが被害者モード。
上手く街の人達騙して、裏ではいつバレるかソワソワしてる。笑える。

あーあ、結局
自責の念に駆られて、自殺かぁ。
つまらないの。

あ、でも
一つだけ面白いことがあった。

あの塩パン。

不味くなった理由
僕の予想だけど、奥さんが塩パン好きなのは
本当なのかもね。

店主もちょっとは奥さんのこと好きだった。
だから、あの塩パンは

店主の優しさがあったから
美味しかったのかもね、きっと。


:優しさだけで、きっと

7/22/2025, 1:42:48 PM

 こうして巡り合ったのも何かの縁

 また、お会い出来たらいいですね

 だって

 色んな人がいる

 『書いて』では 
 
 きっと機会が無い限り会えませんから

 
 それでは今日はここまで


              タイトル:またいつか

 

 

6/25/2025, 12:46:35 PM

 おめでとうございます
 男の子ですよ

 その日、私はお母さんになった
 

 小さい頃から
 厳しい家庭で育った私は
 愛なんてものがよく分からなかった

 大人になっても 
 家の為という理由で
 婚約者が決まっていた

 婚約者の人は
 地元じゃ有名な女たらしで
 私は結婚しても身体だけしか求められなかった

 愛なんて 
 きっとそんなものだと
 そう頭に言い聞かせてきた人生だった

 お腹に子供が出来たと知った日
 その子を下ろしてあげた方が
 家庭の事情に巻き込まれず
 子供にとっては幸せなんじゃないかと思った

 そんなことを考えて過ごしていたある日
 空襲が町を襲った 

 町は燃え
 悲鳴が響く
 大きくなったお腹を
 一人で支えながら逃げ回る

 苦しい
 怖い
 死にたくない

 涙がぽろぽろ溢れ出る
 どうせ死ぬのなら
 一度でいいから
 本物の愛を知りたかった

 誰かが本気で私の事を愛してくれたなら

 
 目が覚めると
 暗い防空壕で座っていた
 外に出る人々を見て
 私も外に出ることにした

 目の前に広がる町は
 以前とは全く違うほどに悲惨なものだった

 建物はほとんど焼き焦げ
 傷だらけの人々が徘徊し
 誰かを呼ぶ声が街に響き渡っていた

 すぐにここがきっと地獄なのだと
 そう思った
 だが、その反面
 自分が今
 自由という道へ進める
 チャンスなのではと思った

 気付くと私は駆け出していた
 どこに行くかも当てもなく

 息を切らして走っていた

 不意に今自分が
 一人ではないということを思い出した

 大きなお腹を擦る
 温かい
 この子もまだ生きたい筈だ
 

 少し経った頃
 私は遠く離れた友人の家で暮らしていた

 そこで
 私は新しい小さな命を産んだ

 小さいのにとても大きい声が
 廊下に鳴り響いていた

 先生が赤子を私の隣にそっと寄せてくれた
 小さいな手で私の指を握った

 その瞬間
 今までずっと感じてきた苦痛が消えた気がした

 涙が止まらない
 こんなにも温かい手で
 誰かに握られたことはあっただろうか

 私は生まれて初めて
 愛を知った気がした

 それはとても小さく
 でも、冷めた心を照らすには
 あまりにも大きい『愛』だった


 あぁ、この子には 
 何があっても
 幸せにしよう

 本物の愛をきっと

 それが、私に出来る恩返しだ

              タイトル:小さな愛
 
 
 
 

2/24/2025, 9:59:12 AM

 空に輝く星は
 ある日突然落ちてきた


 ずっと住んでいた思い出の街
 
 県大会目指して頑張ってた部活動
 学校帰りの友達とのおしゃべり楽しかったな
 ちょっと遅くに帰ってお母さんに怒られたっけ
 
 優しいおばあちゃんがやってた駄菓子屋さん
 いつもおまけしてくれた

 家族でよく行ってたレストラン
 あそこのハンバーグ大好き
 弟は確かオムライスだったかな?

 ここの川原でよく遊んでたな
 小さなサワガニ集めて、それで川に戻した

 …。
 沢山が詰まってた…。
 

 ある日、空から突然
 隕石が降ってきた。
 街の人達が沢山亡くなった。
 思い出の場所も人も一瞬で。

 それはまるで誰かがかけた『魔法』のように
        
                タイトル:魔法
          

11/30/2024, 11:59:21 AM

 そんな風に泣かないでおくれ

 見ているこっちが悲しいじゃないか
 
 君は本当に悪くないよ

 あれは事故だったんだ

 わざわざ、墓参りありがとうな
 君だって忙しいのに

 元気な君を見ると、昔を思い出すよ


 ……?
  
 ま、待って、、
 君の隣にいる人は誰だ?

 見たことある…

 おい、親しげに話すなよ
 
 それに指のそれって…

 嘘だろ、、、○○、。

 だ、駄目だ!

 ○○は、優しくていつも笑顔が素敵で
 それに、あの日だって…

 君は
 僕の為に
 誕生日のサプライズをしてくれて
 ただ、君から貰った新しい帽子が
 風で……!!
 
 思い出したぞ…!
 そいつは、、

 あの時、俺の事を
 轢き殺した癖に
 そのまま逃げてそれで

 僕が幽霊になって彷徨ってた時
 ニュースでまだ捕まってないって…

 あぁ、、ぁぁあ!
 行かないでくれ!頼む!
 お前を巻き込ませる訳には行かないんだ!

          タイトル:泣かないで
 

 

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