おめでとうございます
男の子ですよ
その日、私はお母さんになった
小さい頃から
厳しい家庭で育った私は
愛なんてものがよく分からなかった
大人になっても
家の為という理由で
婚約者が決まっていた
婚約者の人は
地元じゃ有名な女たらしで
私は結婚しても身体だけしか求められなかった
愛なんて
きっとそんなものだと
そう頭に言い聞かせてきた人生だった
お腹に子供が出来たと知った日
その子を下ろしてあげた方が
家庭の事情に巻き込まれず
子供にとっては幸せなんじゃないかと思った
そんなことを考えて過ごしていたある日
空襲が町を襲った
町は燃え
悲鳴が響く
大きくなったお腹を
一人で支えながら逃げ回る
苦しい
怖い
死にたくない
涙がぽろぽろ溢れ出る
どうせ死ぬのなら
一度でいいから
本物の愛を知りたかった
誰かが本気で私の事を愛してくれたなら
目が覚めると
暗い防空壕で座っていた
外に出る人々を見て
私も外に出ることにした
目の前に広がる町は
以前とは全く違うほどに悲惨なものだった
建物はほとんど焼き焦げ
傷だらけの人々が徘徊し
誰かを呼ぶ声が街に響き渡っていた
すぐにここがきっと地獄なのだと
そう思った
だが、その反面
自分が今
自由という道へ進める
チャンスなのではと思った
気付くと私は駆け出していた
どこに行くかも当てもなく
息を切らして走っていた
不意に今自分が
一人ではないということを思い出した
大きなお腹を擦る
温かい
この子もまだ生きたい筈だ
少し経った頃
私は遠く離れた友人の家で暮らしていた
そこで
私は新しい小さな命を産んだ
小さいのにとても大きい声が
廊下に鳴り響いていた
先生が赤子を私の隣にそっと寄せてくれた
小さいな手で私の指を握った
その瞬間
今までずっと感じてきた苦痛が消えた気がした
涙が止まらない
こんなにも温かい手で
誰かに握られたことはあっただろうか
私は生まれて初めて
愛を知った気がした
それはとても小さく
でも、冷めた心を照らすには
あまりにも大きい『愛』だった
あぁ、この子には
何があっても
幸せにしよう
本物の愛をきっと
それが、私に出来る恩返しだ
タイトル:小さな愛
6/25/2025, 12:46:35 PM