あの日から、2日が経ちレナは無事退院して、学校に通っている。少し足を引きずる時もあるが、事故前と大差のない生活が送れているとレナは言っていた。安心した僕は昼休みに、星井にもその話をした。
「…っていう感じでさ。レナ、大丈夫そうで良かったよ」
僕が話し終えると、何故か星井は俯いていた。
「どうした?星井」
具合でも悪いのかと思って、星井の顔を覗き込もうとしたら、いきなり星井が僕の腕を掴んだ。
「花本、少しお前に話がある」
僕はよく分からなくて、それでバスケ部の部長である星井の力には勝てなくて、そのまま立ち入り禁止の紙が貼ってある教室に入らされた。
「どういうつもりだ?星井」
「花本、お前はあの事件からずっと高橋さんの事しか考えてなかった。俺は、俺は……。」
「俺は?」
「お前の、ユウスケの一番になりたかった!」
衝撃的な事実を聞かされた。嘘だろ、そんなわけは無い。
こんな馬鹿げた話があってたまるか。星井は、いや。
アオイは、きっと夢を見ているんだ。こんなことを言うのだったら。僕の1番になりたいという独占欲に似た思いに至ったことは、今まで無かったのに今日はどうしてそういうんだ。
無論その一番というのが恋愛ではなく友情としてのなんだろうが、にしてもおかしい。この思いをどうにか、目が覚めるまでに、アオイから取っ払わないと。
アオイが、これ以上道を踏み外さないように──。
僕には、大切な友達がいる。でも、その子は──。
「──では、HRはこれで終わり。日直挨拶!」
いつもとなんら変わりない帰りのHR。先生の長い話に欠伸をしながら早く終わらないかとソワソワしていた。日直の挨拶の後、僕が教室から出ようとすると後ろから声をかけられた。
「なぁ、花本〜今日こそは一緒に帰ろーぜー」
なんだ、星井か。こいつはいっつも僕と帰りたがる。星井には僕の他にも友達沢山いるし、彼女もいるのに。僕と帰って何がしたいんだかさっぱりだ。
「今日も用事あるからパス!ずっと言ってるけどお前彼女と帰れよな」
そう言い切ると悲しそうな顔をしながら分かったよ…。と呟き彼女のいる隣のクラスに向かった。
よし、もう止める奴はいないな。
僕は足早に学校を出て、自転車に跨った。向かう先は家でも塾でもない
僕の、大切な友達のところだ。
自転車を駐輪場に停めて僕は病院に入って、ある病室に向かう。
病室のネームプレートには、「高橋 レナ」と書かれている。
「レナ!見舞いに来たぞ〜!」
窓の外を見つめているレナに呼びかける。レナはこの声に気づいてこっちを見る。
「あ、ユウスケくん!今日も来てくれたんだね〜」
高橋レナ。交通事故に巻き込まれ、足の骨が折れたそうで今は入院している。レナをあの時守れていたら良かったのに…という思いと、レナと一緒にいたいという思いから僕はずっとここに通っている。
「レナ。どう?病院生活は。もうすぐ…2日後には退院出来るらしいが」
改めて、レナに聞いてみる。すると、満面の笑みで答えてくれた。
「暇だね!」
やっぱり、そうだったか。僕はその返答にふふっ、と笑いながらもレナの方を見ていた。
「でも、ユウスケくんと一緒にいる時は楽しいよ!」
急に言われたその一言に僕は少し照れつつも、また、話し始めた。
僕とレナの話し声と笑い声が微かに聞こえる病室には、
少し涼しくて、どこかの花の香りをまとった風がそよいでいた。
『明日、もし晴れたら』
いつもと変わらない君と話そう
何気ないことで笑おう
それが画面越しだったとしても
私は君を愛し続けるから
だから、一緒に明日も話そう
もし、晴れたとしても
雨だとしても
ずっとね。