な子

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9/12/2025, 9:01:07 PM

【台風が過ぎ去って】

台風が過ぎ去って何もかもがなくなった。
家族も恋人も友達も。
ぜんぶ台風が飲み込んでいった。
涙は出なかった。
ただ心の中の憎しみだけは増大していった。
「呪ってやる」
自分の口から出たとは思えないほど低い声だった。
陰陽師どもに後悔させてやると思った。
我らを祓うために起こした台風よりも。
もっともっと大きな呪いの台風を。
今にも吹かせてやろうと決めた。

9/11/2025, 8:32:19 PM

【ひとりきり】

ひとりきりにしてほしい。
彼女はそう言って部屋のドアを閉めた。
僕は仕方なく廊下に座る。
今日は休日なのに。
せっかく一緒にいられるのに。
そう思いながら、ただ黙っているしかなかった。
最近、彼女が冷たい。
この前のことを怒っているのかもしれない。
仕方がなかったのだ。
目の前にボールがあったからつい遊びたくなって。
彼女は僕に嫌気が差したのだろうか。
どう謝ればいいのだろうか。
ふいにドアが開いた。
彼女の手には真っ赤な毛糸のマフラーが見える。
それを僕の首に巻く。
「明日からお揃いのマフラーで散歩しよ」
彼女の言葉に、僕はワンッと答えた。

9/10/2025, 9:13:09 PM

【Red, Green, Blue】

「レッド!」
「グリーン!」
「ブルー!」
「No! Red,Green,Blue」
いつまでやるのだろう。
もう一時間は経っている。
俺は心の中でため息をついた。
せっかく戦隊ヒーローの一員になれたのに。
かっこよく活躍して名を残したいのに。
どうして登場を何十回もやらなければならない?
レッドもレッドだ。
こんな怪獣の話なんて聞かなければいいのに。
だいたいこの怪獣もおかしいのだ。
辞書がモチーフだからってここまでしなくても。
いいかげん。
いいかげんにしてくれ。
「もうムリだ」
俺の口から出たかと思った。
グリーンは言うとその場から立ち去った。
レッドが何か言うが戻ってくることはない。
「くっくっくっ、作戦どおっぐ」
怪獣の不愉快な声に俺の拳が炸裂していた。
もうめんどい。
クビになってもいい。
ただしコイツだけは。
コイツだけは許せねぇんだ。
数分後、怪獣は巨大化することなく消えた。
俺は表彰され、ブルーからレッドに昇格した。

9/9/2025, 8:31:00 PM

【フィルター】

フィルターを通せば大丈夫。
何も恐れることはない。
そう人々は言う。
本当にそうかなぁ、と思う。
フィルターにそこまでの力があるかなぁって。
巫女としてみんなを守らなきゃいけないのに。
みんなは私の意見を聞かない。
そして私の思ったとおりになって。
建物内は阿鼻叫喚になって。
だから言ったのに。
ゾンビにフィルターをかけたところで。
人間には戻らないって。
ま、いっか。
私には関係ないし。
それに。
そもそもこのゾンビは。
私が作っちゃったみたいなものだし。

9/8/2025, 9:09:54 PM

【仲間になれなくて】

ごめんな。
仲間になれなくて。
俺だってずっと一緒にいたかった。
けど、駄目なんだ。
今回ばかりは。
約束したのにな。
どちらかが死ぬまで一緒にいようって。
いや、もしかしたら。
お前はまだ生きているのかもしれないけど。
肉体は動いてるし襲ってもくる。
まあ、だけど。
俺はまだやりたいことがあって。
なんというか。
「ゾンビになったお前の分まで生きるよ」
だって死んだらお前のことを思い出せないし。

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