【波にさらわれた手紙】
「××島、助けて」
破られた紙に、赤黒い文字。
瓶に入っていた手紙にはそう書かれていた。
××島。
この浜辺にもっとも近い無人島。
近いといっても泳いで渡れる距離ではない。
船の往来もないと聞く。
「どうしたの?」
浜辺にいた恋人が聞いてくる。
俺はなんでもないと笑った。
そして手に持ったものを海に投げる。
波にさらわれた手紙は、形を無くす。
運が良かった。
あいつの手紙を拾えたのだから。
せっかく無人島に閉じ込めたのに。
助かったら意味がない。
生きているかぎり、反省し続けろ。
お前の罪を。
【8月、君に会いたい】
4月、君に一目惚れする
5月、君の落し物を拾って届ける
6月、君に毎日話しかける
7月、君がいなくなる
8月、君に会いたい君に会いたい君に会いたい…
「だから、彼女には会わせられないって!」
君の捜索願いを出したら男が言った。
高圧的な態度に僕は苛立っていた。
男は呆れたように言う。
「自覚ないの? ストーカーの?」
【眩しくて】
眩しくて。
眩しくて。
仕方がない。
太陽を見ようなんて。
誰が言い出したんだっけ?
見たってなにも変わらないのに。
見たってなにもできないのに。
「そんなことないよ」
声がして、僕らは釣り上げられて。
そのまま海に還ることなく干され続けて。
薄れゆく意識の中、また声がして。
「人魚の干物なんて素敵じゃないか」
【熱い鼓動】
感じる。
熱い鼓動を感じる。
君の温もりが。
凍ったすべてを溶かして。
俺の中に入ってくる。
化け物になってしまった俺の中に。
なぜ忘れてしまったのか。
なぜ呑まれてしまったのか。
わからない。
いや、きっと。
俺が弱かったから。
君の突き刺した短刀は。
俺を人間にして。
息の根を止めた。
泣かないで。
どうか泣かないで。
君は悪くない。
だって、君はこれから。
俺の代わりに化け物になるのだから。
【タイミング】
「重要なのは、タイミングです」
先生は言う。
大縄飛びも勉強も進学も結婚も。
これからの人生も。
すべてはタイミング。
六年しか生きていない僕が。
これから死ぬのも。
タイミング。