【夢を描け】
大人たちはみな夢を描けという。
描いたところで、無意味なのに。
だって、夢を見れないんだから。
叶えられないし、眠れもしない。
機械の僕たちに、夢は描けない。
【届かない……】
背伸びをする。
あと少し、あと少しなのに。
どうしても届かない……。
見えているのに、触れられそうなのに。
どうして。
「キミには無理だよ」
頭上から声がする。
男とも女とも子供とも老人ともとれる声で。
「だってまだ死んでいないだろう?」
届かない。
僕の手は天国には届かない。
【木漏れ日】
木漏れ日を見て逃げた。
森の奥まで走った。
日に当たってはいけない。
人々にバレてもいけない。
「おーい」
誰かの声が聞こえた。
少年は息を殺して気配を消す。
決して吸血鬼だとバレないように。
「あなたがいけないんでしょ」
「きみだって」
森の入口で少年の両親は言い争う。
トマトジュースしか飲む息子に夫が冗談で言った。
そんなに飲んだら吸血鬼になっちゃうよ、と。
息子は信じて、森へ逃げて。
そして今日も帰ってこない。
【ラブソング】
「このうた、なに?」
「昔流行ったラブソング」
「らぶそんぐ?」
「人が人を愛することを歌った曲さ」
「へぇー」
それきり二人の間に沈黙が流れた。
恋愛なんて、今はあるのかわからない。
人口減少に伴って、結婚相手を自動で決める時代。
恋なんてしたって叶わないことはみんな知ってる。
だからこそ、僕は。
ラブソングに夢を見るんだ。
【手紙を開くと】
手紙を開くと、白檀の香りがした。
特徴的な丸文字が目に入る。
元カノから届いた最初で最後の手紙。
もう二度と会えない彼女からの遺言。
懐かしさと悲しさが混ざって心がざわめく。
いろいろと言いたいことはあった。
けど、それを伝えることはもうできなくて。
彼女と僕の居場所はもう交わることはなくて。
空を見て、目を細めて。
折った筆をまた握り直した。