小学生の頃、冬休みの課題の中に
書き初めを提出するというものがあった
僕は書道に精通している祖母の家に丸2日通い
何十枚という数の「富士山」を書き
これならいいだろう、と太鼓判を押してもらった
1枚を手に家に帰った
母はそれを見るなり酷い顔をした
名前の書き方がおかしいから書き直せ、と
気付けば目の前にはもう見飽きた
習字セットが広げられていた
僕はひどく疲れていたので気力もなく
ぼうっと硯の上で筆を遊ばせていると
突然母に殴られた
その後泣きながら書いた1枚は
特選に選ばれ、県から賞状を貰った
母は自分が殴ったからとれたのだと笑っていた
当時の僕はクラスから浮いていたので
陰で何かを言われた気がしたが
そんなのどうでも良かった
あんな紙屑燃えてしまえ、と思った
優越感なんてものはどこにも無かった
今でも時折この出来事を思い出す
多分もう消えることはない
僕の中の黒点の一つ
ひどく睨んでくる黒点の一つ
まだLINEなんてなかった時代
よく親の携帯を借りて
君とメールをした事を思い出した
僕が生徒会長に立候補して落選した時
他の友人は頑張ったねと励ましてくれたのに
君は「暇が増えるからまた一緒に遊べて嬉しい」なんて
メールの下部に隠すように吐露していて
結局それが一番記憶に残っている
変わっていくのなら全て見ておきたい
居なくなるのなら居た事を知りたい
BUMP OF CHICKENのR.I.P.という曲の好きな歌詞
なんて君に相応しいんだろうか
どうしてこんなに寂しいんだろうか
時々ふと不思議に思う
どうして神様は僕達をこんなふうに
出会わせてくれたのだろうと
小学校帰りに急いで家に集まって
親に注意されるまでままごとで遊んだことも
中学校の頃一度だけ席が隣になって
授業なんてそっちのけで絵しりとりをした事も
高校からはバラバラだったけれど
合間を縫ってゲーム大会を開いたことも
大学の頃一度全てが嫌になった僕を
予定を蹴って家に泊まらせてくれたことも
今でもたまに話題にあがるそれらを
僕は一粒でも取りこぼしたくはない
今日のなんて事もない出来事でさえ
取りこぼさないように飾りつけてみる
同じものを見た時に
同じものを決まって連想するほど
僕らの思考はそっくりになって
けれど君は僕と違ってただ明るくて
前例のない突拍子もない行動をたまにしては
僕を翻弄させて笑わせる
こんなくだらない世界で
春の嵐みたいに突然僕の前に降ってきた君
他の誰にもとって変わりはしないから
どうか幸せでいてください
この道の先になにがあるの
同じ風景 同じ匂い
唯一信じた君は遠く遠くの空
寂しいと呟いてみたって
街の喧騒に消されておわり
「お前も母親に似るんだ」って
むかしに兄は言ったけれど
その言葉を思い出して時折泣くくらい
自分の中身に嫌気がさしてる
それを言ったあなたにでさえ
きっと似ている自分がこわい
とどのつまりみんなきらい
自分を含めてみんなこわい
この場所に留まる意味をぐらぐら
沸騰した頭の中の底で考えている
碌なこと考えられない理由は
最近の天気のせいにしてしまえ
窓越しに見えるのは
薄ぼんやりとした丸い月と
疲れ切った僕の顔
何も変わらないような日々の中で
目を凝らして些細に変わっていくものを拾い集めて
なんとなく運ばれていく
怖いくらいに先の見通せるこれからに
どうやって期待すればいいんだろう
どうやって愛せばいいんだろう
「この家は暖かい
何も脅威なんてない」なんて
言うのは簡単で
君が僕の母親を酷く嫌っている事実に安堵するような
確かな裏切りと冷たい内面を
僕はあと何度見過ごすのだろう
上手くやり過ごすのだろう
この場所で根を張るように
時間に比例して無分別に増える責任を
時折ぐしゃぐしゃにしてしまいたくなる
いい子になんてならなくて良かったのに
もう考えたくないから目を閉じるよ
まだ耳に残ってる君の声を
抱きしめて今日も眠るよ
さよなら おやすみ