ただ愛してほしかった、それだけだった。
どんどん欲張りになって嫉妬して、でも妬むことはなかった。羨ましいとは思えなかったから。頭を撫でられ喜ぶ姿に馬鹿だなと思っていた。だって痛いことされてたくさん我慢したからそうしてもらえてる、少なくとも私の知っている世界ではそれが普通だから、毎日のほほんとしているのも全部我慢の上で成り立っていると信じて疑わなかった。
でも違った、何もしなくても愛されてた。
嘘つき、と思った。だったら私も嘘をつこう。そうすれば愛される、痛いのも我慢も嫌だからたくさん嘘をついてあげる。無意味なのは最初から気づいていたしもっと嫌われることも知っていた。それでも許される人たちをみて私もそうなれるはずだと信じて疑わなかった。
「素直だね」
その言葉が気持ち悪いのに嬉しい。嘘ばかりの私をみて褒められるのは苦しいけど救いだった。だって本来の私だったら絶対にもらえない言葉だから。大切に大切にゴミ箱に捨てる。
今?今ね。今は何してるんだろうね。
疲れちゃったから、休もうかなって思ってるの。
そうなの、だからまた今度誘ってね。
また今度が、あったらね
あ、間違えちゃった。
また今度会おうね、だよ。
そうだよ私が病むわけないじゃん。
そうでしょ、ね?
【題:今を生きる】
生まれてきてくれてありがとう
祝福をもらい
生きていてくれてありがとう
感謝され
幸せでありますように
祈りを受ける
理想の日
【題:Special day】
血も涙も分け合いましょう
いつか消えてしまう命を繋ぎ止めてほしい
儚いものよりずっと意味のあるものだから
永遠なんて夢物語がなくても大丈夫
どんなに離れていてもきっと見つける
大切な半身、おやすみなさい
【題:二人だけの。】
暑いとイライラするよね
ただでさえ暑いのにキッチンに立つともっと暑い。冷房を入れてもいいけど火を使ってると全然効かない。電気とお金の無駄だと思って火を使う工程をはやく終えようと忙しなく動いていた。
ようやく一段落ついて汗でベタベタのTシャツを着替えにいこうとしたときだ。買い物から帰ってきた祖母がご機嫌に部屋に入ってきたかと思うと、突然不快ですと言わんばかりに顔をしかめた。
「冷房つけてちょうだい」
はあん?と凄みたくなるのを我慢した私はとても偉い。金メダルもらってもいいくらい偉い。
汗だくの私をチラ見して、買ってきたものをその場に残し着替えてくるとだけ言って部屋を出ていった。
またしても怒鳴りつけたくなるのをグッと飲み込んで、罪のない食材を冷蔵庫に放り込んだ。雑になってしまったが、どれだけ丁寧にしまっても祖母の気に入らない配置だとすぐに入れ替えられてしまうからもうどうでもいい。
バタバタとうるさい足音が近づいてきたので何も言わずキッチン側のドアから廊下に出た。こうするともう片方のドアから入ってくる人と顔を合わせなくて済むからだ。
案の定、冷房が入っていないことに大きな声で文句を言って、キッチンに入るとすぐ冷蔵庫を開けてアレもだめコレもだめと言いながら物を動かす音が聞こえる。
怒りを通り越してもはや呆れる。こんな人と一体いつまで過ごさなければいけないんだ。イライラしすぎて頭の血管切れちゃう。
自室に戻って、しっかり冷房の効いていることに幸せを噛みしめつつ着替える。身体がスッキリするとモヤモヤも少しは晴れた気がした。
こうも暑いと感情のコントロールが効かなくて嫌になる。普段はあんな小言、ハイハイスミマセンネ、と聞き流せるのに。まあ終わったことだし、気にしない。あんなの気にする時間と労力が勿体ない。
我慢はよくないのでお菓子を頬張りながら推しの配信をみて、夏休みを満喫する。それがこの夏の私に課せられた使命なのだから。
【題:夏】
目が滑って文字が読めない
単語だと理解できるのに文章になると分からなくなる
話したいことが言葉にならない
何か思いついても一瞬後にはもう思い出せない
いつまでも眠れない
食べだすと吐きそうになるまで止まらない
会話ができない
人の顔をみていられない
…ついにボケたかな、この年で?
自分のためにエアコンを使うのも勿体なくて窓を開けた
熱い風が通り抜けて汗ばんだ肌を撫でていく
風鈴の音が小さく聴こえた
こんな姿になってもまだ季節を感じるのか
絶望しかないな
【題:風鈴の音】