シシー

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9/18/2023, 6:49:56 AM

「おまえ、頭がお花畑だな」

 呆れたような、嘲るような声が言った。実際その笑みは歪みきっていて嘲笑と言っても差し支えのないものだった。指をさしてゲラゲラと下品に嗤う声がだんだんと増えていって、気づけば周りの人が全員嗤っている。

 私もね、知ってるよその言葉の意味を。バカだと言いたいのでしょ。
でも私よりもテストの点数が低くて順位も下な本物のバカに言われてもなにも響かないの。怪我した人を助けもせず無視したり嘲笑うだけで手当てもできないバカに言われても傷つくことはないの。
人助け、といえば聞こえはいいよね。非難されることなどなく、むしろ褒められ感謝されることなんだよ。
 急がば回れっていうでしょ。
私は「善人」のフリをすることで満たされるの。満たされれば嫌なものが入り込む隙などどこにもない。そうやって自分を守っているだけ。誰のためでもない、自分のためにね。

 そういうのってすごく疲れるの。だからお花畑ときいたときなんだか嬉しくなった。きれいな花で頭の中が埋め尽くされて、それこそ嫌なことなど覆い隠してしまうほどだったなら私は。
 ああ、本当に疲れているんだ。身体のあちこちが痛いのも、嗤われるたびに傷ついていたはずの心が何も感じなくなったのも。ぜんぶ疲れているせいなんだ。

「…はやく、終わらないかな」

                 【題:花畑】

9/14/2023, 2:09:50 PM

 切り刻む。

 もう二度と読まれることも、見られることもないように。ハサミで細かく切り刻んでゴミとして捨てるの。
私が書いた文字も、描いた絵も、過去のすべてが無くなるまで繰り返す。何時間もそうやっていたせいでいつの間にかまめができて、それが潰れて、傷跡となって残った。

 すべてを消すつもりが一生消えないものとしてつきまとうことになるなんて、滑稽すぎて笑えない。
 この身体が燃え尽きるまで残るなんて、私自身がゴミだったのかもね。本当に笑えない。

            【題:命が燃え尽きるまで】

9/14/2023, 2:24:29 AM

 ―もう、誰もいないから。

 そう言って、力なく笑ってゆっくりと落ちていく。
白くささくれ立つ指先が遠く離れていく。直前まで触れていた手は冷たくて、いつまでも握っていなければと変な使命感があったのに放してしまったんだ。

 朝日が昇りはじめる前の靄がかった空は、深い藍色に薄い橙色が混ざりはじめていた。それを古びたビルの屋上からみていたんだ。お気に入りだったという曲を二人で歌いながら、暗く闇に沈んだ街のことなど忘れたフリをして、繰り返し歌った。
 幸せとは言い難い状況で、いつも通りを演じること。
泣きも笑いもしない、淡々とした日常をなぞっていつかくる別れの日をただ待っていた。少しずつ青ざめていく顔色も、カサついてひび割れていく皮膚も。お互いがお互いの生気を失っていく様を静観していたのだ。

 そうやって朝を迎えた。

 ぼんやりとみえていた景色もだんだんと霞んでいって、もうほとんど視えていない。身体を動かそうにもまるでそこに手足など存在しないかのような感覚が残るだけ。
 かろうじて聴こえた声が離れていくのが分かって、大きく目を開いて視界を広げ手を伸ばそうとした。
当然手は動かなかったけれど、最後に彼女の顔を一瞬だけはっきりと視ることができた。

 先に逝ったのは僕で、彼女が最後だったんだ。

 クシャリと歪めた表情から一転して穏やかに微笑んだから気が抜けてしまったのだろうな。一緒にという約束だったのに、久しぶりにみた笑顔にコロッと落ちてしまったのだ。惚れた弱みというやつなのだろうか、情けないな。
 でも悪くない最期だった。約束守れなくてごめん。でも嬉しかったんだ。ありがとう。


               【題:夜明け前】

9/13/2023, 4:48:52 AM

 「好き」

 そんなの言葉だけならいくらでも言える。人に限らず物や動物にだって気に入ったものなら連呼してるじゃないか。本気かどうかよりも、どれが一番なのか優先順位の方が気になるでしょ。
 恋愛もそうじゃないのかな。他のどんなものよりも優先順位が高いだけ。気持ちの強さというより、対象をどれだけ優先できるかで決めてるのでしょ。

 これをいうと「拗らせてる」だの「恋したことないんだね」と呆れられるだけで伝わらない。
好きも優先順位を決めることも結局は本人の感情次第であることは変わらないのにな。そんなにおかしなことなの?
 
               【題:本気の恋】

9/12/2023, 1:46:29 AM

 とうとう何も書きこまれなくなったカレンダーは真っ白だった。かわいらしいキャラクターと花の絵柄だけが枠の外を彩っているだけで、中身は空っぽだ。
 もうみているのも嫌で絵柄を伏せて机の端に追いやった。それすら今の自分の姿に重なってみえて、情けなさやら不甲斐なさやらが沸々と湧いてきてしかたない。

「どうしてこうなったんだろ」


               【題:カレンダー】

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