口下手というか、筆不精というか
どうにも会話することが苦手でLINEの通知がくる度にうんざりしてしまう
そうやっている内に時間だけがすぎていって、いつの間にか出来上がっているのが「開けないLINE」なんだ
未だに付き合ってくれる人たちには頭が上がらないよ
【題:開けないLINE】
ピンッと張った糸が切れたとき、それが終わり。
それまで当たり前のようにできていたことが何もできなくなった。はくはくと口が動くだけで声が出ない。そのうちヒュウと空気が抜ける音がして、視界が歪んで生温かいものが頬を滑り落ちた。
その場の空気が淀んでいくのがわかる。迷惑そうな表情が7つとも僕をみてから、すぐに議題に戻っていく。
発言するはずだった僕の言葉も、存在すらなかったかのようにカンファレンスは続いた。もう何も言えなかった。
そのあとは当然呼び出された。叱られるでもなく淡々と事情を尋ねる態度は、もう呆れてものも言えないといった感じだった。僕は声を発することもできずただ涙を流し続けることしかできなかった。
その日を境に、何もかもが崩れ落ちていった。
手に握らされた連絡先が書かれた紙を丁寧に折りたたんできれいな箱にしまった。小さな優しさが余計につらい。
あんなに病気とはどんなもので、それとの向き合い方や支え方を学んできたのに。僕は結局のまれてしまった。
他人のことだから客観的にみて的確に動く判断を下せるのだ。自分のことになった途端に感情に流されて自分も周りもみえなくなる。
「まともな子どもを一人くらい産んでから言えよ」
家族の形すら歪めてしまう自分の存在が許せない。
毎日毎日どうしたら自分を消せるのかだけを考え続ける。
薬?カウンセリング?そんなものでこの罪を消すことなどできるわけがない。
完璧でない僕は出来損ないだ。処分してくれ。
【題:不完全な僕】
若い頃は柑橘系のサッパリとした香りが好きだった。
サボンもよかったけど、独特の甘ったるい匂いが肌にまとわりつく感じがして好きにはなれなかった。
今はもう香水なんていらない。
だって部屋の中で咲く小さな花々の優しい香りと水をたっぷり含んだ葉や土のホッとする匂いに包まれているから。
自然の香水が今の私のお気に入りなの。誰にも真似できない私だけのものってなんだか素敵でしょう。
【題:香水】
ああ、うるさい。うるさいな。
「黙ってきけよ」
ギャアギャアと鳴き喚く群衆が静まり返る。イラ立ちと憎しみを隠しもしない視線が俺を突き刺して、たった数秒のこの沈黙すら我慢できないとばかりにギラギラしている。誰かが舌打ちをしたのを合図にまたあちこちから怒号が上がった。
もはや誰にむけているのかすら分からないそれらを延々と吐き出すマシーンでしかない。なんて鬱陶しいのだろう。こいつらこそくたばればいいのに。
可哀想に。司会者が顔を青くして震えてしまっているじゃないか。警備隊ですら呆れ返って度を越しそうなやつだけを押さえるだけで他は無視している。
まあ、育ちだけはいいはずだから人やものを傷つけるほど浅はかではないのだろう。お上品な言い回しでも隠しきれない汚い欲が渦巻いているのが残念だ。
きれいな花に囲まれその中心で微笑む少女の遺影。
この場に遺体がないのだけが、薄幸だった少女にとって救いなのかもしれない。
『ねえ、黙ってきいてくれる?』
真っ黒な瞳からボロボロと涙をこぼしながら、やっと出てきた言葉だった。誰かへの恨み言でもなく、日常生活の愚痴でもなく、理不尽な我儘でもない。ただ自分の言葉をきいてほしいと懇願してきたのが最後だった。
俺は、ちゃんときけていたのだろうか。
【題:言葉はいらない、ただ・・・】
ベランダで青々と繁るミントの鉢植えがある。
いつからか豆粒くらいの小さなカエルが住みついた。たまにいなくなったかと思うと、今度は数が増えていたり色が違ったりで中々出入りが激しい物件のようだ。
そんな小さな住人たちは私が水を撒く度に欄干に飛びのってじっくりとこちらを観察してくる。臆病なやつでも欄干の裏に隠れるだけで、私がいなくなればまた鉢植えに戻っていくのだ。
突然現れては、ある日突然姿を消して、またある日は突然増えたり色を変えたりする。自由気ままな君たちの訪問は私の楽しみの一つなんだよ。
「また来てね」
【題:突然の君の訪問。】