無邪気な子供たち
心を病んだ人を理解できない奴らがいる。
理解しようとすらしない奴らもいる。
特に大人がそうだ。
だから、僕は子供が好きだ。
それも小さな子供。
まだまだ未成熟な子供。
だって彼らは僕を友達のように接してくれるから。
彼らの前では僕は心の底から笑顔になれるんだ。
大人たちの前では顔で笑って、背中で泣いてる。
そんなことしなくていいから、気が楽だ。
僕が病人だなんて、夢にも思わないだろう。
そして『変わった面白い人』だなんて言う。
本当に無邪気で元気な子供たち。
大人の女なんていらない。
僕はただ、僕を『面白い人』と認識してくれる子供たちとじゃれあっていたい。
フォールダウン、バット・ゲット・バクァップ
ズルして生きてたってしょうがない
例えトランクの中に大金が入ってたって
誰も振り向きもしない、そんな人生に
何の意味もないことくらい知ってるだろ?
空っぽの心を埋めてくれるのはお前なんだ
お前がいなければ、とっくに俺は引き金を引いてる
気にしないでくれ、俺は大丈夫だから
俺はもうすぐくたばるだろう
だけどじきに起き上がる
俺は地に這いつくばるだろう
でもゆっくりと立ち上がる
怖いもの見たさで世界の中身を見たんだ
たちまち後悔したよ、そこは便所より汚い所だ
でもお前はそんな場所でも綺麗に輝いている
いつまでもその光で照らしてくれるなら
俺は愚かにも笑って生きていけるだろう
お前は俺にとっての自由の女神なのだから
気にしないでくれ、俺は大丈夫だから
俺はもうすぐくたばるだろう
だけどじきに起き上がる
俺は地に這いつくばるだろう
でもゆっくりと立ち上がる
そうだ
これが俺の生き方なんだ
気にしないでくれ、俺は大丈夫だから
俺はもうすぐくたばるだろう
だけどじきに起き上がる
俺は地に這いつくばるだろう
でもゆっくりと立ち上がる
世界は転げ落ちていくだろう
だけど心配しないでいい
また元通りになるのだから
大丈夫さ
きっと大丈夫さ
エチゾラム0.5mgの人生
僕が生きていける理由は、この小さな、白い錠剤だけなんだ。
これがあるから、安心して生きていけるんだ。
こんなに小さいのに、何よりも心強い味方は君だけなんだ。
死ぬほど怖い思いをした。
死にたくなるほど辛い思いをした。
だけど、いつでも君が僕を救ってくれる。
救うのは神様じゃない。
白い小さな、僕の味方。
グッバイ・エブリワン
「私は今、広大な宇宙とひとつになっている。そして世界と星ぼしは私を優しく包み、そして私はおかえしに彼らを愛している。人類は皆友達。敵なんてどこにもいない。本当の敵は自分自身の醜い心なんだということ、知ってる?」
机に座ったまま、彼女は囁き声で僕に向かってそう言った。
僕は彼女が受験のストレスでとうとうおかしくなってしまったと思った。彼女は目に涙を浮かべ、安らかに微笑んでいる。
「あ、ああ。そうなんだ……」
うふふ、と彼女は笑ってみせた。だけど今は授業中だから、あんまり関わりたくなかった。ほれみろ、先生が睨んでいるじゃないか。
「先生、『夜這い』ってなんですかぁ?」
馬鹿な生徒の一人が僕らに気遣ったのか、それとも本当に馬鹿なのか、そんな質問をした。
「そうですね。いわゆる、『男女の営み』ってヤツです」
先生はまるでロボットみたいに棒読みで即答した。
「だからその、『男女の営み』ってのを詳しく…」
馬鹿がそう言いかけたところで、先生は大声でこう怒鳴ったんだ。
「なら端的に言うぞ、セックスです!」
クラス中で爆笑の嵐が巻き起こった。分かってた。皆受験で頭がおかしくなってたんだ。彼女は頬を赤らめて、「先生ったら…なんてこと」とかほざいてやがんだ。おいおい、さっきまで宇宙と一体になっていたヤツのセリフかよ? と僕は彼女に呆れる。
「静かに! 静かにしなさい!」
「せんせー、それはセクハラですよー!」
「『夜這い』ってエロくない?」
「俺、今晩お前に夜這いしに行ってもいいかい?」
「静かにしなさいったら!」
「いやーん」
こうなってしまえばもうカオスだ。もうしばらくすると学年主任が飛んできて怒鳴り込みに来るだろう。僕はひたすらシャーペンの先で腕をザクザクと刺しているだけでいたって普通だ。
こいつらに比べれば。
フードコートにて
「だけどお前さん、マスターベーションはするんだろう?」
レタスやチーズやらいろいろ挟んだ不恰好なハンバーガーをかぶりつきながら、げっぷ混じりにアンドレは恥ずかしげもなくそう言った。
「声がデケエよ、アンディー」
俺は咄嗟に周囲を見渡して、人差し指をアンドレの前に付き出してから睨んだ。だけどヤツはヘラヘラ笑っていやがった。
「どうなんだ? するんだろうが。ええ?」
「まあ、俺も男だからな…」
「ほれみろ。で、どれくらいするんだよ?」
そもそも俺はマスターベーションの話をするために、こうしてフードコートでヤツに会った訳じゃない。ヤツはすぐに話をそらすんだ。でも神様はおかしいんだな、こんな性格最悪のゲスを誰もが惚れるような美男子に仕立て上げるんだからな。それに比べりゃ俺は不細工でも美形でもない。たぶん。
「おい、俺はな。こんな下らない話をするためにこうしてお前とくっちゃべってるんじゃないぞ。最初に言ったろう。議題は『恋愛について』だって」
俺は腹が減ってなかったから、アイスコーヒーとドーナツを食べていた。さっきから豚みたいにガツガツとハンバーガーを喰らってる目の前の美男子は俺の言葉を聞くなりため息をつきやがった。
「あのなぁ…お前の言う『小さな人形みたいな女の子』なんていねーっつの」
「いいや、いる。スクールバスでよく見かける、ポニーテールの子さ。人形みたいに小さいんだよ。その小さな子はね、小さな手で大きな本をちゃんと持って読んでるんだ。俺はその子に惚れたんだ」
「いっそダッチワイフと付き合うってのは?」
「アンディー」
俺はテーブルをひっくり返すような勢いで立ち上がり、ヤツを睨み付けた。
「お前こそうるせェよ。まあ、そう熱くならんと、座れ」
「…」
俺は怒りで震えながら、静かに座った。
「俺はな、お前と違ってオッパイの大きい、テクニックも豊富な子と付き合いたいのさ。ふん、『人形みたいな子』ときたか。そんなだからお前は童貞なんだよ」
「お前は童貞じゃないってのかよ?」
「あたぼうよ。四、五人とはやったな」
チクショウ。まだ声が震えてた。ヤツはケンカは本当に強いんだ。
「それでも俺は、あの子に告白するよ。俺は純粋な恋愛をしたいからな」
「ああそ。まあせいぜい頑張りたまえ『オカマさん』?」
俺は席を立つと飲みかけのアイスコーヒーをヤツの顔面めがけてぶっかけてやった。『殺してやる』。その後のことはご想像にお任せするよ。ただ、死にはしなかった。だけど包帯で巻かれたこの顔で『あの子』に告白するのは当分先になったのは言うまでもない。