渡り廊下
無機質な空間に、無意味な渡り廊下
私はそこを歩いている
どこへ向かっているのかわからない
進んでいるのかさえ明確ではない
廊下の先は空っぽの部屋
さらに進むとまた廊下が現れる
そしてまた部屋が。
もうずっとこんな調子なんだ
ひどく疲れた
建物は絶えず増築を繰り返している
まるで誰かさんの人生を見てるようだ
渡り廊下から空が見える
安っぽい、作り物の空がペイントされてるみたい
意味を持ってないから
意味を持つ理由がないから
不安はないし、希望もない
シーシュポスの神話を思い出す
これは試練なのか、罰なのか
考えることすら、私を疲れさせる
歩いても立ち止まっても、建物は広がっていく
ぼうっとしてても時は進む、人生のように。
ビール
長い歴史の中で知恵の果実を食べた人類が生み出した最も優れたものは何か。
蒸気機関?
電力?
はたまた原子力?
答えはビールだ。
ビール
大麦の麦芽を発酵させたアルコール飲料
琥珀のような液体
そいつが喉から胃へと流れていくあの瞬間
俺は生きる意味はビールだと知る
炎天下の夏の午後、仕事終わりのあのビール
最高だ。
この世で最もうまい飲み物はコーラだと確信してた三、四年前。
いつからか俺はビールを飲むようになっていた。
オジー自慢のオ○オンビール。
最高だ。
芸術少女
人生は壮大なアートだと彼女は言った
アバンギャルドというらしい
僕はよくわからない
ピカソ
ダリ
マグリット
とてつもない才能を有した偉人たち
彼らにはこの世界がどう見えていたのだろう
僕にはそんな感性はないのが残念
色彩で溢れる
真っ白なキャンバスに筆を走らせる
そんな君が好きだ
君が描く絵の世界に連れていってほしい
理解されなくてもいい
僕のエゴで、君の才能を一人占めしたいのだから
真っ黒な眼で見つめたもの
人々はキラキラしたものだけを見ている
暗黒からは眼を背けている
葛藤や悩みから、逃げたがっている
壊れていく、人生
年老いていく、たましい
若き日の夢は朽ちた揺りかごの中
あまりにも空虚な世界
雑踏、ざわめき、無気力
アーケードから覗く乾いた空
ただ回る風力発電のプロペラ
私の眼に映るものは
眼を背けたくなるような、ありのままの世界
真っ黒な眼で見つめたもの
言葉になんか、できない
尊くて、失ってはいけないモノ
私も、やがて朽ちていく
それでも、この真っ黒な眼は閉ざさない
グラーフ・ツェッペリン
貴方は、かつて世界中を熱狂させた飛行船を知っているだろうか。
1929年8月15日、『伯爵』と名付けられたその巨大な飛行船は、20名の乗客と、40名の乗組員を乗せて世界一周をする旅に踏み出した。
ドイツ生まれの白い鯨ははるか極東のこの日本にもやって来た。
その鯨はとても美しかった。
その鯨は世界中の人々に愛されていた。
かつて、飛行船は戦争において恐怖の対象だった。
かつて、飛行船は街や都市を破壊するために作られた兵器だった。
彼女は、この世界をどう見ていただろう。
人は翼を持たないから、未知なる空へ憧れを抱く。
その形はやがて飛行機となり、飛行船となり、効率良く人を殺傷するために洗練された形になる。
つまり、兵器となる。
飛行機や飛行船は、それを望んでいただろうか?
誰かを傷つけるために生まれてきたかったのだろうか?
鯨の伯爵は幸せだ。たくさんの人々を運び、ただ、少しの汚れもない空を泳ぎ続けたのだから。
親戚であるヒンデンブルク号が爆発事故を起こすまで、彼女は懸命に働いた。
彼女の最期は、再び始まった戦争により、身体をバラバラに解体され、骨となる金属の部品を兵器に転用されたものだった。
僕は思う。
彼女ほど、美しく儚い生涯はないだろうと。