グラーフ・ツェッペリン
貴方は、かつて世界中を熱狂させた飛行船を知っているだろうか。
1929年8月15日、『伯爵』と名付けられたその巨大な飛行船は、20名の乗客と、40名の乗組員を乗せて世界一周をする旅に踏み出した。
ドイツ生まれの白い鯨ははるか極東のこの日本にもやって来た。
その鯨はとても美しかった。
その鯨は世界中の人々に愛されていた。
かつて、飛行船は戦争において恐怖の対象だった。
かつて、飛行船は街や都市を破壊するために作られた兵器だった。
彼女は、この世界をどう見ていただろう。
人は翼を持たないから、未知なる空へ憧れを抱く。
その形はやがて飛行機となり、飛行船となり、効率良く人を殺傷するために洗練された形になる。
つまり、兵器となる。
飛行機や飛行船は、それを望んでいただろうか?
誰かを傷つけるために生まれてきたかったのだろうか?
鯨の伯爵は幸せだ。たくさんの人々を運び、ただ、少しの汚れもない空を泳ぎ続けたのだから。
親戚であるヒンデンブルク号が爆発事故を起こすまで、彼女は懸命に働いた。
彼女の最期は、再び始まった戦争により、身体をバラバラに解体され、骨となる金属の部品を兵器に転用されたものだった。
僕は思う。
彼女ほど、美しく儚い生涯はないだろうと。
地球
大きな大きな宇宙の海に浮かぶ
小さな小さな水の惑星、地球
黒い水溜まりは宇宙
きらめく砂粒は銀河
青色のビー玉は地球
ガラスの中で僕らは生きている
ガラスの中で。
人は愛し合い
人は傷つけ合い
また、誰かを許し
やがて、絆を広げていく
大空を自由に舞う鳥
サバンナの勇猛な獣
はるか海の底の深海魚
高層ビルの下を歩くサラリーマン
荒野を走る戦車
美しくて、残酷で、それでもなお美しい世界
そんなビー玉の、ガラスの世界
回る。
回る。
46億年。
青いビー玉、地球。
ダウンフォール
悪事と悦楽の交差点
古びた秩序は捨て去った
若い魂が肉体の中で反響している
耐えられなくなり、髪を短くした
列車に揺られながら君を想う
日が落ちてもいっこうに夜は来ない
でも気配だけは微かに感じる
そして霊園に溶けていく
無数のカラスが見つめてくる
約束された崩壊へと、新しい理念へと
徐々に僕らは近づきつつあるのに
それでもなお、反芻し続けているんだ
記憶が改変されても、骨までは作り替えられない
それだけが唯一の救い
生命のハーモニーを奏でるとき
真の自由は湖畔へ
月明かりに照らされ
間もなく静寂な夜が降りてくる
TEC-DC9半自動拳銃
私が特別なんじゃない、周りが異常なんだ。
ただ、それだけのことなのに気がつくのにずいぶんと時間がかかった。
私は今日まで臆病者だった。
ひどく怯えてきた。
まるでオオカミの群れに囲まれたウサギだった。
なら、そんなウサギの皮を捨ててトラになろう。
私は、今日までトラになるために生きてきたんだ。
だけど、トラだっていつかは死ぬ。
今日の夜にはそんな猛獣のようなトラも息絶えていることだろう。
誰かがトラを殺すか。
私自身がトラを殺すか。
ただ、それだけだ。
電光
あなたが目覚めるとき
私は大地に水をもたらす
世界が潤うように
荒れ果てた大地を緑に戻す
あなたは裸足で大海を渡る
私は数多の宝石を散りばめ
正しき道を示す
無数の電光が見えるだろうか
回遊魚のように宙を漂う
新世界《ベツレヘム》の扉
闇夜の石
紫外線と礼拝堂
廃車、廃墟
天の使者の呼び声
ナイルの川
時空間
そして、あなたの大いなる存在。