John Doe(短編小説)

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7/29/2023, 12:11:31 AM

グラーフ・ツェッペリン


貴方は、かつて世界中を熱狂させた飛行船を知っているだろうか。

1929年8月15日、『伯爵』と名付けられたその巨大な飛行船は、20名の乗客と、40名の乗組員を乗せて世界一周をする旅に踏み出した。
ドイツ生まれの白い鯨ははるか極東のこの日本にもやって来た。
その鯨はとても美しかった。
その鯨は世界中の人々に愛されていた。

かつて、飛行船は戦争において恐怖の対象だった。
かつて、飛行船は街や都市を破壊するために作られた兵器だった。

彼女は、この世界をどう見ていただろう。
人は翼を持たないから、未知なる空へ憧れを抱く。
その形はやがて飛行機となり、飛行船となり、効率良く人を殺傷するために洗練された形になる。
つまり、兵器となる。

飛行機や飛行船は、それを望んでいただろうか?
誰かを傷つけるために生まれてきたかったのだろうか?
鯨の伯爵は幸せだ。たくさんの人々を運び、ただ、少しの汚れもない空を泳ぎ続けたのだから。

親戚であるヒンデンブルク号が爆発事故を起こすまで、彼女は懸命に働いた。
彼女の最期は、再び始まった戦争により、身体をバラバラに解体され、骨となる金属の部品を兵器に転用されたものだった。

僕は思う。
彼女ほど、美しく儚い生涯はないだろうと。

7/27/2023, 2:34:40 PM

地球


大きな大きな宇宙の海に浮かぶ
小さな小さな水の惑星、地球
黒い水溜まりは宇宙
きらめく砂粒は銀河
青色のビー玉は地球
ガラスの中で僕らは生きている

ガラスの中で。
人は愛し合い
人は傷つけ合い
また、誰かを許し
やがて、絆を広げていく

大空を自由に舞う鳥
サバンナの勇猛な獣
はるか海の底の深海魚
高層ビルの下を歩くサラリーマン
荒野を走る戦車

美しくて、残酷で、それでもなお美しい世界
そんなビー玉の、ガラスの世界
回る。
回る。
46億年。

青いビー玉、地球。

7/25/2023, 10:46:58 AM

ダウンフォール


悪事と悦楽の交差点
古びた秩序は捨て去った
若い魂が肉体の中で反響している
耐えられなくなり、髪を短くした
列車に揺られながら君を想う
日が落ちてもいっこうに夜は来ない
でも気配だけは微かに感じる
そして霊園に溶けていく
無数のカラスが見つめてくる
約束された崩壊へと、新しい理念へと
徐々に僕らは近づきつつあるのに
それでもなお、反芻し続けているんだ
記憶が改変されても、骨までは作り替えられない
それだけが唯一の救い
生命のハーモニーを奏でるとき
真の自由は湖畔へ
月明かりに照らされ
間もなく静寂な夜が降りてくる

7/24/2023, 1:10:46 AM

TEC-DC9半自動拳銃


私が特別なんじゃない、周りが異常なんだ。
ただ、それだけのことなのに気がつくのにずいぶんと時間がかかった。
私は今日まで臆病者だった。
ひどく怯えてきた。
まるでオオカミの群れに囲まれたウサギだった。
なら、そんなウサギの皮を捨ててトラになろう。

私は、今日までトラになるために生きてきたんだ。
だけど、トラだっていつかは死ぬ。
今日の夜にはそんな猛獣のようなトラも息絶えていることだろう。
誰かがトラを殺すか。
私自身がトラを殺すか。

ただ、それだけだ。

7/18/2023, 1:34:18 AM

電光


あなたが目覚めるとき
私は大地に水をもたらす
世界が潤うように
荒れ果てた大地を緑に戻す
あなたは裸足で大海を渡る
私は数多の宝石を散りばめ
正しき道を示す
無数の電光が見えるだろうか
回遊魚のように宙を漂う
新世界《ベツレヘム》の扉
闇夜の石
紫外線と礼拝堂
廃車、廃墟
天の使者の呼び声
ナイルの川
時空間

そして、あなたの大いなる存在。

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