John Doe(短編小説)

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6/24/2023, 11:53:43 AM

ニライカナイ


ある男の子の場合。

その男の子は戦士に憧れていた。
大切な人を護るために戦う英雄。
たとえ自分を犠牲にしてでも、悪と戦う誇り高きヒーロー。
なんの淀みも濁りもない純粋無垢な精神。
戦いの中倒れたとき、天国で仲間たちと出会うことを信じている。

ある女の子の場合。

その女の子は白雪姫に憧れていた。
おめかしして、素敵な王子様とデート。
甘いお菓子に紅茶、ほかの女の子たちとお茶会。
特別な存在で、いつも綿菓子のような心でいる。
初恋の味は、きっと甘美なものだと信じている。

そんな少年少女たちは大人を嫌っていた。
大人は汚れている。
大人の恋愛は腐敗している。
彼らが望んだものはそんな大人じゃない。
大人に身体を汚される前に。
戦士への憧れを抱いている間に。
初恋への憧れを抱いている間に。
身体がまだ綺麗で、未成熟で、美しい間に。

そんな彼らが出会ったとき。
美しいままでいるために、彼らは海へ行く。
天国では海の話をするらしいから。
ヒトは海から生まれたらしいから。
死ぬと魂は空じゃなくて海に還るから。
永遠に子供のままの魂であり続けるために。

彼らは魚になる。

6/24/2023, 12:28:13 AM

夏の幻


それは車窓から見た海
巨大な雲の下の水平線が輝いていた

それは灯台の下のセーラー服の学生
その子の髪が潮風に揺られていた

爽やかな夏の匂いが僕の心を慰める
懐かしいのは母の手の温もり

涙が溢れる 苦しいほど
どうかしてしまったんだろう
センチメンタルなんだ どうしようもないほど

母が教えてくれたお伽噺
それもこんな夏が舞台だった
はるか昔の話だ うろ覚えな物語さ
でもすごく特別なんだ 僕にとって

夏の幻
それは希望でもあり 悲しみでもある
複雑な心の機械さ 苦い過去を思い出させる
母がくれた世界にただ一人 僕は生きてく

夏の日差しはお伽噺の海へ溶けて消えてった
幻みたいに切ない気持ちを抱えて…

6/22/2023, 11:58:20 AM

お知らせ


メンタル不調のため、しばらくお休みします。
いつも読んでくださりありがとうございます。


水鏡

6/18/2023, 11:25:38 PM

黒薔薇


あなたは完璧な女性だった
その容姿も、性格も、声色も、感性も、頭脳も
わたしを魅了するには十分過ぎた
あなたは悪くない
何も悪くないのに
あなたからは悪意しか感じられない
憎くて仕方ない
愛おしくて仕方ない
恐ろしくて仕方ない
あなたをわたしのものにしたい
でも、あなたに嫌われたくない
あなたに嫌われたら、きっと生きていけない
あなたをわたしのものにできない欲求不満が
わたしを狂わせる
あなたが怖い
あなたが微笑む
悪意たっぷりの美しい笑みで
そんな顔でわたしを見ないで
あなたの全てが欲しい
その悪意さえも
血液の一滴も残さず、全てすべてスベテ
欲しい欲しイホシイ
好き嫌い好キ嫌イスキキライ
真っ黒な薔薇のような悪意が
わたしの肺を満たすとき
どうしようもないと知ったとき

わたしは

6/17/2023, 11:19:40 PM

スイング


お洒落で愉快なジャズマンがやって来た
ピアノ、ベース、ドラムにサックスが
メロディー奏でます都会の隅で
悲しそうな顔した少年少女も
ごらん、身体が揺れだしスイングを始める
音階は色彩を描きます絵の具のように
忙しなく道行くビジネスマンも
足を止めればたちまちスイングを始める
寂しそうなそこの人よ
ステージへどうぞ、共に踊りましょう
色褪せた日常のキャンバスに
筆を走らせ描きますジャズマンと
都会に夜がやってくる
賑やかな夜がやってくる
いつかは終わってしまう喧騒も
今だけは忘れてスイングしましょう

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