John Doe(短編小説)

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2/28/2023, 12:12:48 PM

遠くの街へ


男のいた街はことごとく崩れていた。
廃墟と化したその街に男ひとり以外の人間は見当たらない。
無数の瓦礫。
干上がった水路。
むき出しの鉄骨。
灰色の空。
ノイズのような風の音。

男は人を求めて街を出た。
より遠くへ、灰色の世界を歩く。

線路の脇に携帯電話が落ちていた。
コール音が響いている。
男は電話を取り、耳元に寄せる。
賑やかな人々の声が聞こえる。

「そこに誰かいるのか」
男は返答を祈るように待っていた。
暫くして、反応があった。

「私はその街にいる。あなたを、皆はずっと待ってる。お願い、早く私を見つけて」

電話が途切れ、男は走り始めた。

2/28/2023, 3:29:30 AM

現実逃避


ドアを開けて外へ出ても、そこにいるのは私。
どんなに着飾ったって私は私。
何も変わらないし、目が覚めれば現実にうんざりするだけ。

生きてる間に逃げ道なんてない。
次から次へと苦痛の種は芽生えてくるばかり。
摘み取ればいい? キリがない。

だから私はナイフを手に入れた。
本の中にこっそり忍ばせておいたよ。
いつでも使える、魔法のナイフ。
奇跡が起きないなら、起こせばいいんだって。
そう気づいたんだ。