色の無い世界で生きて来た。
全てが褪せて、古ぼけた写真のような、頭上を覆う曇天のような、目前にあるのに現実味が無くて、視界に薄靄が掛かっているような。
全てが他人事のような世界で、ただただ漠然と生きて来た。
そんな世界に、強烈で、鮮烈で、眩いくらいの極彩色が飛び込んできた瞬間。
見たことも無かった光景に、それを与えてくれた君に、初めて心を動かされた。
自分が、産まれたような気がしたんだ。
貴方が居なければ、きっと順風満帆な人生を送れていたかも知れない。
貴方が居なければ、余計な感情に拘うことも無かったかも知れない。
貴方が居なければ、もっと聡明で毅然とした自分に成れていたかも知れない。
貴方が居なければ、貴方の一挙手一投足に惑わされるような日々を送らずに済んだかも知れない。
貴方が居たから、私はこんなに弱くなった。
貴方を知らずに生きていた頃には、もう戻れないと気付いてしまった。
貴方の人生と言う本の一頁を彩ることが出来るのなら。
私は私の人生と言う本の一頁だけでも、好きになることが出来る気がするの。
泣くなら泣けば良い。
悲しいのか怒っているのか。
不機嫌そうな顔を絶やさない君は、雨が降りそうで降らない重苦しい曇天に似ている。
笑うなら笑えば良い。
きっと嬉しいのだろうに。
緩んだ顔を晒したくないと引き締めてしまう君は、晴れそうで青空を覗かせない薄雲に似ている。
怒るなら怒れば良いのに。
そんな曖昧な君に、つい強い言葉を使ってしまう僕を見て。
悲しそうな顔で怒るくらいなら、雷を落としてくれれば良いのにと、君は下手クソに嗤って言った。
好きか嫌いかで物事を測れたら、どれだけ楽だっただろう。
好きって言ってくれる人を、好きになれたら良かったのに。
好きになってくれない人を、嫌いになれたら良かったのに。