天国と地獄があるかは
分からないけど。
ふと、思い出すのは
祖父のことだ。
もう、末期癌だった。
夏休みいっぱい滞在して
中学1年の私は慣れない電車で
病院まで通った。
大きな病院の静かな個室で
祖父は、眠っている事が多かった。
ゆっくりと、傍の椅子に腰掛け
祖父が息をしているか…ジッと眺めた。
車椅子を、押して病院内を少し
散歩することもあった。
『天にも昇る気持ちやなぁ、嬉しいなぁ』
と、祖父は物凄く喜んでいた。
その言葉が、何故だか離れなかった。
身体の痛みや息苦しさは
どれほどの地獄だったろうか。
ただあの夏…
私と祖父は同じ時間の中で
ほんの束の間…車椅子を押しながら
天国を歩いたのかもしれない。
【お題:天国と地獄】
月…月は綺麗だなぁ…
ふと、引き寄せられるように
眺めてしまう事がある。
もう直ぐで、家に着くところだけど
こんな日があっても良いかとも思えた。
それほどに、美しい月だ。
ぼんやりと眺めながら、今日1日の
出来事が…ゆるく巻き戻ってゆく。
ふとある女性が、チラついた。
なんの気もなく接していた同僚だった。
たった、数秒前までは。
驚きと、自覚してしまった感情に
月を眺めるどころではなくなった俺は
言葉にならない気恥ずかしさに
足早に、家に急いだ。
月には、人の心を開かせる
不思議な力があるのかもしれない。
【お題:月に願いを】
雨音しか聞こえない。
髪を濡らし、頬を伝い
服も靴もぐしゃぐしゃに濡れ
赤く染まった血溜まりは溢れ
全てを洗い流してゆく。
ガタガタと震えていた
身体は、先ほどまでとは
違い湯気を放ちそうな勢いで熱く火照る。
ノイズのような、雨音が
思考も時も止めるような感覚。
握りしめていたナイフは
轟々と流れる川に投げ捨てた。
降り止まない雨が、そのうち足跡すら
掻き消すかもしれない。
さぁ、家に帰ろう。
今日は久しぶりによく眠れそうだから。
【お題:いつまでも降り止まない、雨】
不安なんか、いつだって
付き纏ってるよね。
苦しいも、辛いも、ありがとうも。
あの頃の私が「いまの私」だから
自分の現状がどうであれ
後悔は、してないんだ。
どうやったって送れない
過去へのメッセージは、要らない。
私は、いまの自分をもう少しだけ
褒めてあげよう。
それが、この先の私の栄養になるよって
いうことが
逆にに、あの頃の私がくれた
メッセージかもしれない。
【お題:あの頃の不安だった私へ】
物語に出てくる
棘まみれの茨のような。
足先に根が這って
土に取り込まれるような。
目の前から光を奪う
閉ざされた巨大な壁のように。
もう、過去になったハズの
トラウマが、時に忍び寄り首を絞める。
自責の念、自己嫌悪。
どこまで、わたしは私を許せるのかな。
時には、大丈夫だよと
背中をさすって欲しくなるよ。
ただ、弱々しさも見せられぬ
ジレンマが…本当の呪縛かもしれない。
【お題:逃れられない呪縛】