救急隊員として、人を助ける。
俺はその訓練をずっとしてきた。
最優先にするのは自分の命。
それは二次被害を出さないためのもので、自分が要救助者を助けるためにこそ大切なことだった。
俺は手を伸ばす。
どんな状況でも俺の手が届く限り伸ばしてやる。
おわり
六六三、愛と平和
私の過去は記憶に留めて置きたくない。
そう思って私は過去を捨て去った。
そうして私はココに居る。
高いビル群を遠目にしながら空港に降り立つ。
誰も私を知らないこの場所で、新しい自分になる。
一歩進めなかった私から、勇気を振り絞って前に進むと決めたんだ。
知らない都市の空気を吸ってから足を踏み出した。
おわり
六六二、過ぎ去った日々
人にプレゼントを贈る時は、高いものを贈るより手作りのものを作って渡したい。
ものを作るのが得意なのか聞かれると、どちらかと言えば不器用な方で。
本音を言えばお金でどうにかなるなら、サッと買いたい気持ちはある。
でも、そうじゃないよね。
私はチョコレートアイスクリームを作る。
アイスなんて買えばいい。
高いアイスなんていくらでもある。
でも、私は作りたい。
お世話になった人にお礼をしたい。
〝ありがとう〟を沢山詰め込みたい。
生物が迷惑なら捨ててもいい。
そう思って、自分にできる最大の気持ちを込めて、手間をかけていく。
緩かったものが少しずつ力を込めないと混ぜられなくなっていく。
この都市で、本気で悩んだ時に背中を押してくれた大好きな人たちに感謝を込めて。
こういうものを、気になる彼にもいつか渡せたらいいな。
チョコアイスをお世話になった人たちに渡したら、泣きそうなほど喜んでくれた。
たったひとりでこの都市に来た私を、家族のように大切にしてくれる人たち。
ああ、渡せて良かった。
おわり
六六一、お金より大事なもの
「月が綺麗ですね」
そんな言葉が〝好き〟を伝える言葉のひとつだと知って驚いた。
学が無い方だから知らなかったんだけど、先輩から教えてもらったんだ。
ああ、でも。ちょっと分かるかも。
気になる彼女が月を背負って俺を見つめ返してきてくれた時。凄く胸が高鳴った。
元々色素の薄い人で、最初はロウソクの火みたいに儚さを感じていたから。
月の光を浴びていた彼女は神秘的に見えたし、なによりも誰よりもキレイだった。
昔の人は、よく言ったもんだな。
あれから月夜になると彼女の姿が脳裏に過ぎる。
おわり
六六〇、月夜
ごめんね。
心配かけているよね。
でも、俺が今どうしているかはきっと伝わっていると思うんだ。
救急隊員として、後には引けないものがあるんだ。
――
一緒に住むようになって、長く共に過ごす時間が増えることで言葉にしなくても彼女の言葉が分かる時がある。
もちろん、言葉にする大切さがあるのは分かっているから、ささいな言葉ほど大切に伝えるようにしているよ。
でも、緊張している時ほど言葉にしなくても通じる瞬間があるんだ。
今日は早く帰るつもりだった。
でも、帰る直前に大きな事故で行くことになったから、すぐにメッセージを送った。
終わったらすぐ帰るよ。
でも、今は救急隊員として人を助けてくる。
おわり
六五九、絆