初めて出会った時は、困った患者さんだなって思った。
彼女自身は不幸体質なのか、しょっちゅう怪我をして俺の患者さんになっていた。
バイクが壊れた時、彼女の職場に行った。
「修理してくださーい!」
「はーい、あ!! いらっしゃいませー!」
俺だと気がついた時、声のトーンが一段上がり笑顔が本当に嬉しそうな顔になった。
今思うと、それが種だったのかもしれない。
「俺、水色が好きでさー」
「私もですー!!」
こんな些細なことが水やりになる。
「クリームソーダ、大好きなの〜。新しいのあげるね」
「わ! 嬉しい、私も大好きなんです!」
日を浴びて、芽吹いてくる。
彼女との交流はどんよりした気持ちが、涼やかな風が吹いてくるみたいだったんだ。
請求書に毎回書いてくれる、ささやかな一言。
どんどん彼女への気持ちが芽吹いていくんだ。
気がついちゃダメな気持ちの種が沢山撒かれて、沢山水やりしてもらって、沢山の太陽を浴びて、芽吹いていく。
恋という種が。
おわり
二八九、芽吹きのとき
だいすき。
だいすき。
だいすき。
彼のことが大好きなの。
暖かい温もりが私に触れてくれる。
それが嬉しくて、たまらないの。
私も彼に手を伸ばすと、その手を取って手のひらにキスしてくれた。
初めて彼と肌を重ねた日。
私は一生忘れることはできない。
それほど幸せな時だった。
おわり
二八八、あの日の温もり
ずるいんだよな、こういう時は。
彼女が眉を八の字にして俺を見上げてくる。
追い討ちに「ダメですか?」なんて言われて、ダメだなんて言えると思う?
ちょっとした恋人のわがまま。
普段はグッと我慢しているのに、今日はどうしても欲しいものがある。
健康的な意味で不安があるからダメって言ったらこれだよ。
余程欲しかったみたい。
ピンポイントで今みたいな小悪魔っぽい表情と仕草をする。絶対に自分の可愛らしさを理解して言っているよね?
やめてやめて、俺に効くから。
顔で好きになったわけじゃない。彼女の行動と心に惚れてしまった。だから外見で、そんなふうに言ったって……。
結論は最初から出ているけれど。
普通はダメって言わなきゃダメなんだけれど。
「もう、今日だけだからね!!」
「やったー!!」
パッと喜ぶ笑顔は誰よりも可愛くて、愛らしくて、愛おしくて。
白旗です。
可愛い君に勝てるわけない。
おわり
二八七、cute!
日記を書くのは得意じゃない。
三日坊主の私にはこういうのは向かないんだよね。
スケジュール帳はあるけれど、そこにメモをしても出来事を書くことは殆どなかった。
でもちょっとしたメモや、それに合わせてスマホに入っている写真を見ていると、彼と一緒に遊びに行ったことや、彼との出来事を思い出せる。
小さなことだけれど、この記録は記憶を呼び覚ます大切な記録で、記憶を呼び覚ます糸口だ。
「今度、どこかにちゃんと保存しよう」
できれば、ふたりで保存できる場所を作って、思い出を詰め込んでいきたい。
私たちの大切な記録。
おわり
二八六、記録
今日は彼女とふたりで謎解きゲームに行くことにした。
以前、ふたりで謎解きに行ったことがあるんだけど、申し訳ない記憶がある。今回はそういう記憶を払拭したくて改めて彼女を誘った。
とは言え、俺は謎解き得意じゃない。
逆に彼女はふわふわした柔らかい印象があり、末っ子気質。そんなふうに見えるけれど、実は頭の回転が早い。つまり彼女の方が謎解きが出来るんだよな。
まあ、あの頃とは違って変な緊張はしていないし、リラックスして挑めると思う。
どんな謎解きが来るのかワクワクしてくる。
「行こうか」
「はい!!」
彼女に手を差し伸べると、しっかり俺の手を取ってくれた。
さぁ、行こう!
どんな謎解きが待っているか楽しみで、高揚感が奥から溢れる。
すると繋いだ手に力が込められて、彼女に視線を送ると挑戦的な目で俺を見てこう言った。
「冒険、ですね!」
おわり
二八五、さぁ冒険だ