幼なじみの■■は変わったヤツだ。
ふらっと立ち寄った生活雑貨店で、ふと宙を見つめていたかと思えば、ぱっと振り返って周囲に視線を走らせる。
「どした?」
こっちからの問いかけに、どこか上の空な様子で、ぽつりと言うのだ。
「なんか、呼ばれてる気がして…」
断じて霊的なものではない。
何しろ、ホンモノを感知するのは自分の方が慣れているからだ。
「あ、このシリーズ…やば、全タイプ揃ってる!」
ヤツの表情がぱぁっと明るくなる。
嬉々として、屋根のように突起が並んでいる物を手に取り、しげしげと眺めている。
「ブックスタンド?」
俺は全く興味が無かったが、とりあえず尋ねてみた。
「そうそう、これ便利なんだよ~。1冊でも倒れないし、型崩れしないし」
「ふーん」
「呼んでたのは、オマエなんだね~」
ペットの猫を撫でるように、その物体を撫でる■■。
なんだ、この絵面。
「買うの?」
「ほしいタイプが有ったからね~」
と、先ほど愛おしげに撫でていた物を棚に戻し、突起が2段になっている方を新たに手に取る。
それ違うんかいっ
密かに心の中で突っ込み、俺はぼぅっと■■を見ていた。
女性の中では、高めの部類に入る身長、スラリとした体躯、ショートボブの黒髪、クールで中性的な顔立ち。
性格はさっぱりして、ノリも悪くない。
ただの幼なじみ。
ただの遊び仲間。
の、つもり。
ただの、と言い聞かせている。
こんな呪文を唱えるようになったのは、いつからだろう。
俺に彼女ができた時?
■■が見知らぬ男と話しているところを目撃した時?
共通の友人の結婚式に参列した時?
馬鹿らしい
自分の腹を探ったところで、俺は決めているんだ。
俺は動かない。
腹の中身も見ない。そんなの直視しようものなら、変わってしまうから。
俺が望んで守ってきた、この温い距離が。
#距離
冬になったら
君との
約束の日が訪れる
あの水族館まで
君と電車に揺られて
水槽の魚たちよりも
君の横顔に見惚れた
そんなつもりがなくても
きっと
あの日を再現する
再現してしまう
君は変わっているかな
僕は
ちょっとチャラくなったらしい
そんなつもりはないけど
きっと
君が好きだと言った
素朴さは残っているかな
残っていたらいいな
冬になったら
約束がなくても
一緒に出かけよう
でもやっぱり
冬にならなくても
一緒にいてくれないかな
君との思い出は
限定じゃなくてさ
無制限にね
増やしていけたら
最高なんだ
#冬になったら
君と会えるのは
よくて年に数回
もっともっと
会えたらいいのに
でもね
僕と君の
それぞれの
いわゆる
大人の事情ってやつで
実現不可能なのは
分かっている
君にすがりたいわけじゃない
君を一人占めしたいわけじゃない
君との会瀬が非現実すぎる今を
君との会瀬が何でもない現実すぎる未来に
したいだけ
ただそれだけ
#また会いましょう
昼間は嫌いだ
道行く人が
キラキラとして見えるから
真夜中が好きだ
どうしようもない
ちっぽけな存在の自分も
誰にも指を差されず
黙認してもらえる気がするから
こんな僕も
誰かに認めてもらいたい欲はある
でも、
こんな自分はそんな欲さえおこがましいと
別の自分が言うのだ
取るに足らない存在のクセに
無価値の人間が何を言うのか
力を込めて
全力で否定する術を
僕は知らない
ただただ
耳を塞ぐだけだ
ただただ
目を瞑るだけだ
#力を込めて
今日は愛して止まない
推しのライブで
嗚呼
ようやく
会えるんだと
心が震える
駅から早足で歩いて
ちょっと息切れしているのは
運動不足のせいだけではない
ちょっと特別な動悸が
混ざっているに違いなくて
この胸痛さえも
愛おしい
私は推しのことになると
途端に盲目的で
猪突猛進になる
血が沸騰するような
全身が粟立つような
とてつもない
情動
私には
適切な言葉が見つからない
いまだに
それはきっと
明日になっても
#きっと明日も