幼なじみの■■は変わったヤツだ。
ふらっと立ち寄った生活雑貨店で、ふと宙を見つめていたかと思えば、ぱっと振り返って周囲に視線を走らせる。
「どした?」
こっちからの問いかけに、どこか上の空な様子で、ぽつりと言うのだ。
「なんか、呼ばれてる気がして…」
断じて霊的なものではない。
何しろ、ホンモノを感知するのは自分の方が慣れているからだ。
「あ、このシリーズ…やば、全タイプ揃ってる!」
ヤツの表情がぱぁっと明るくなる。
嬉々として、屋根のように突起が並んでいる物を手に取り、しげしげと眺めている。
「ブックスタンド?」
俺は全く興味が無かったが、とりあえず尋ねてみた。
「そうそう、これ便利なんだよ~。1冊でも倒れないし、型崩れしないし」
「ふーん」
「呼んでたのは、オマエなんだね~」
ペットの猫を撫でるように、その物体を撫でる■■。
なんだ、この絵面。
「買うの?」
「ほしいタイプが有ったからね~」
と、先ほど愛おしげに撫でていた物を棚に戻し、突起が2段になっている方を新たに手に取る。
それ違うんかいっ
密かに心の中で突っ込み、俺はぼぅっと■■を見ていた。
女性の中では、高めの部類に入る身長、スラリとした体躯、ショートボブの黒髪、クールで中性的な顔立ち。
性格はさっぱりして、ノリも悪くない。
ただの幼なじみ。
ただの遊び仲間。
の、つもり。
ただの、と言い聞かせている。
こんな呪文を唱えるようになったのは、いつからだろう。
俺に彼女ができた時?
■■が見知らぬ男と話しているところを目撃した時?
共通の友人の結婚式に参列した時?
馬鹿らしい
自分の腹を探ったところで、俺は決めているんだ。
俺は動かない。
腹の中身も見ない。そんなの直視しようものなら、変わってしまうから。
俺が望んで守ってきた、この温い距離が。
#距離
12/2/2024, 2:28:04 AM