貴方様が私の前に姿を現してくださった時
なんという奇跡かと思いました
血塗られた衣を身にまとった貴方様は
まさに鮮紅の天使様のようでした
私も貴方様を彩る紅の欠片へと…
そう願い目を閉じましたけれど
再び瞼を開いた時
貴方様はもうどこにもいらっしゃいませんでした
貴方様が打首になられたこと
もちろん知っております
ですが貴方様は天使
きっとまた私の前へいらっしゃってくれるのでしょう
奇跡をもう一度
私が白いただの有象無象になる前に
たそがれどきのいま
あなたの影は長く美しく
あなたの足元を彩る
いつかあなたの影などではなく
日に照らされた横顔を見られる
そんな時が来るのでしょうか
もし羽が生えていたなら
鳥のように空を飛びたい
この世界を皆より高いところから眺めていたい
でもそうなったら
こんなふうにビルから飛び降りることは出来ない
あぁ早く、
傍観者になろう
こんな世界でも上から見ればきっと綺麗だと
信じているよ
君が上を向いていたので釣られて空を見ると
そこは血塗られたように真っ赤に染っていた
「なんか、この世の終わりみたいだね、こわ〜い」
なんでもないように君が呟く
この世の終わりならいいだろう
君がいなくなる方が自分にとっては何倍も怖い
君がいなくなった時、
この空は一体何色になるのだろうか
空模様はどうなるのだろうか
そう思いながら視線を君に落とす
「何深刻そうな顔してんの、帰ろっ!」
そう無邪気に笑う君を見て、ふと確信した
太陽のような君が行くのなら
君が死んでしまう日の空はきっとどんな日よりも
いっそう青く、美しく輝くのだろうな
それを僕は空の上から眺めていたい
駐車場に車を止めて
2人で海に向かって歩を進める
「夜の海って怖いね」
「なんか動き始めそう、ぐわぁって」
「え、めっちゃわかる」
「攫われないでね、絶対」
「任せて」
久しぶりの海にテンションが上がったのか
どんどんと君は先に進んでいく
ほんの少し立ち止まっただけなのにもう海の中にいる君と砂浜に立つ自分
「待ってってば!」
急いで追いかけて背中に飛びつく
「うわっ」
2人分の重みを受け、水が飛沫をあげる
「着替え持ってきてないのに何すんだよっ、びびったぁ」
「びしょ濡れだ」
2人で同時に髪をかきあげた
ふはっ、同時に笑って仰向けに海へ浮かぶ
「服どうしようね」
「夜だし…なんとかなる?」
「適当かよ」
波に攫われないよう、しっかり手を繋ぐ
人魚姫は最後泡になって消えてしまったけど、
自分たちなら大丈夫
何があっても消えることはない
だって結ばれる運命なのだから