夜鯨

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8/7/2023, 1:12:36 PM

どうすればよかったのだろう。
何をすればよかったのか、何をしなければよかったのか、自分にはわからなかった。
色んな人間から「お前は人の心がわかっていない」と言われてきた。
分からないからどうした、それで困る事などほとんど無い。そう思っていたが、そんな昔の自分の頭をはたいて少しでも歩み寄る努力をすればこの結末は変わっていたのだろうか。
いや、そんなことはない。どうやったってあの人の決断は変わらなかっただろう。
自分を含め沢山の人間を教え導いてきたあの人は、出会う前から自分たちと道を違えていたのだ。
だからあの人と自分が対峙することは

最初から決まっていた

8/6/2023, 11:22:09 AM

太陽のようだな
そんなことを言われたことがある。
しかし自分はそうとは思えなかった。自分には熱がない。体温的な意味ではなく、なにか概念のようなものだがとりあえず熱がないのだ。なにか向かって走る熱さも目的のために燃やす熱も何も無くただ“今ここにいる”それだけだった。
そんな自分よりも、彼の方が・・・あの赫赫と熱を燃やす彼の方がよっぽど太陽のようだ。
あの熱で溶かされる奴らが少し羨ましい。あの熱を感じて迎える最後はきっと良いものだ。
そんなことを言えば頭を叩かれるから今日もその様子を見るだけにとどめる。
今日も太陽は近いようで遠い

8/5/2023, 2:38:00 PM

鐘の音が聞こえる。陸にいる時はそうでも無いが、浜辺や船の上にいる時は特に大きく聞こえる気がする。
これが何なのかは何となくわかっている。
おそらく呼ばれている。昔、平気で海に入っていた頃に見たあの魚やイルカ、鮫に鯨まで混じったあの大きな群れ。群れと言うには規則性もなにかリーダーがいるという訳でもなくなにかひとつの目的地に向かい捕食者も被捕食者も関係なく泳いでいた。
あの時から鐘の音がやまない。
無意識に海へと足が動く。止まらなければと思う反面、呼ばれている感覚が強すぎて足を止めることが出来ない。あの魚達が向かった場所へ自分もたどり着ければこの鐘の音は止むのだろうか・・・
そういえばあの時どうやって帰ったのだろう?自分ならあのまま魚達を追いかけて行ったと思うのだが・・・
そんなことを考えている間に足首が海水に浸かる。
グイッと誰かが自分の手を引く。
そうだ、あの時も自分の手を引いて連れ帰ってくれたやつがいた。
「帰るぞ」
鐘の音が遠退いた。