月よ、月よ。
満ちては欠けるあなたの姿は、多くの者を魅了するでしょう。
不完全、完全。
どのような姿であっても美しい。
そんなあなたに焦がれる私が願うのはひとつ。
月夜、月夜。
「また明日」って好きだな。
友達との挨拶は、「ばいばい」で済ませちゃうけれど、その度に少し寂しくなる。
だから明日も会えるっていう、能天気で明るい言葉が好き。
愛があれば何でもできる。
そう上手くは行かないだろうけど、せめて。
そう希望を持っていたいの。
絵空事が現実になってしまえるような、
そんな世界であってほしいの。
地面から湯気が立ち上ってきそうな、ある夏の日。
太陽の目から逃れようと足速に家路を辿っていた。
ふと、視界の端に黄色が映った。
蝶々だ。
忙しなく羽を動かして低空を飛んでいる。
何の気なしに眺めていると、道路の向こう側から車が近づいてくることに気付いた。
(このままいくと、あの蝶は──)
少し焦って蝶を見る。
気付いていないのか、それとも脅威だと分からないのか、蝶は車の進路上を呑気に飛んでいる。
助けてあげたいが、飛び出す訳にもいかない。
ただ、車と蝶の間で視線を行き来させる。
結局その時は来た。
青空に映える黄色が、宙を舞う。
重さを感じさせない動きで地へ落ちていった。
それは、ひどく儚くて幻を見ていたかのようだった。
あの光景が、いつまでも脳裏に焼き付いている。
初恋はたぶん、保育園の時。
病気をして入院していたことがあるんだけれど、当時の記憶をいまだに思い出す。きっと、珍しくて新鮮だったから印象が強かったんだろうな。
ある時、保育園のみんなからお見舞いのお手紙が届いた。お母さんから「みんなからだよ」って聞いた瞬間に、あの子のことを思い浮かべた。
友達よりも先にそっちが出てくるなんて薄情な奴だ。すまない、かつての友よ。
なんて書いてあるのか気になって食い入るように手紙を見つめた。
そこには不安定な字で、
「早く元気になってね。」
とだけ書いてあった。
ちょっとがっかりした。
でも、嬉しかった。
少しでも、自分のことを考えてくれたって思うと、どうしようもなく嬉しかったから。
嬉しくて、嬉しくて、大事にしようって思った。
あの手紙は、今どこだろう。