奇麗

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7/20/2023, 11:22:34 AM

「私の名前なんていうか知ってる?」

彼は僕に問うた。
君の純美な唇からこぼれた気泡は上へとあがってく。


知らないよ
知る必要もないだろう?


僕は問うた。

「そうかなぁ」


そうだよ
君と僕は水たまりと空の境界で偶然出会っただけの関係だろう?


もう一度僕は問うた。

「でも私達、問を交えた仲だろう?」

彼は問うた。

彼の短髪がふわりと風になびいた。

「知らない人にはついて行っちゃだめだ。
 でも私達はもう知らない人同士じゃない、そうだろう?」

もう一度彼は問うた。

彼の純美な唇から気泡がこぼれる。

くだらないことすぎて僕の顔からは笑みがこぼれたことだろう。

そして今日は僕がくだらないことを言う彼に惹かれた日になるのだろう。


くだらない君はとても純粋で美しいね

7/20/2023, 8:43:19 AM

視線の先には「綺麗」があった。
いつだって僕の横に居てくれる「綺麗」が。
僕は「綺麗」が好きだった。
透きとおっているその純粋さも、日に反射して煌めくその好奇心も。

いつしか「綺麗」はいなくなった。
僕の目の前から姿を消した。
気付いたときには遅いとはこのことだ。
悪かったのは僕だろうか。
それとも自分の存在価値を僕に伝えなかった「綺麗」だろうか。
多分、「綺麗」は戻ってこない。

でも僕はまだくたばらない。
「綺麗」を溶かした僕も
僕の言いなりになった「綺麗」も
僕らはいつだって唯一無二の存在だ。
そう、「綺麗」は死んでない。
僕の視界からいなくなっただけだ。
僕の中に「綺麗」は溶けている。
もう取繕えない程に残酷な姿でも
「綺麗」は僕の中にちゃんといるのだ。

あぁ、
「綺麗」が溶けていた自分の体を再生しようと
僕ともう一度融合しようとしている音が聞こえる。
残念だったね「綺麗」。
君はもう僕の中から出られない。
恨めばいい、僕を。
君は謙虚だ。
君は僕を恨めやしない。
君は気づいているはずだから。
僕が「綺麗」を愛していることに。
いっそ恨んでほしいよ、僕は。
そうすれば僕は眼の前のガラスに映る「奇麗」な僕を快く受け入れられるのに。

君は優しいんだね。
僕を抱きしめる必要なんかないんだよ。
体の中から抱きしめられてる。
この感じ嫌いじゃない。
僕らにしかわからないこの感覚。
愛してるなんて言わないで。
僕も君を愛してる。
だけど僕は君を当たり前のものだと思ってしまっていた。
僕の罪は重いね。

あれれ。
もう完全に溶けちゃったかぁ。
僕はもう「奇麗」になったんだね。
「奇麗」な僕になる前に言いたかったよ。

「    」