シノ

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9/7/2023, 10:33:24 AM

小学校の6年間、ピアノを習っていた。
ピアノは嫌いだった。
先生が弾くと、夢のようになめらかな音が紡がれるのに、私のピアノは壊れかけの機械みたいなガタゴトした音しか鳴らなかった。

毎日30分の練習は大嫌い。毎週土曜日のレッスンだって行きたくない。だけど唯一好きだったのは、先生のお手本を後ろで見ていることだった。
太く短い深爪の先生の指が、鍵盤を柔らかく沈ませ、盤上で優雅なダンスを踊っていた。

ただのピアノの先生ではない、ピアニストで作曲家の先生のコンサートが毎週聞けることだけが、私の楽しみだった。



「踊るように」

9/6/2023, 12:16:48 PM

学校のチャイムがきらいだった。
友達と楽しくおしゃべりしていたのに、突然大きな音に遮られて、みんな散り散りになってしまう。まだ話したいことがあったのに。次の休み時間には、また別の話になってしまうのに。

大人にはチャイムがない。
私は最近、友人二人と毎日のように通話をしているけれど、誰かがお風呂に入ったり家族が帰ってきたりするまで、会話はいつまでも続く。終わらない休み時間。部活のない放課後。

帰宅部仲間みたいな二人の友達は、ゆっくりと酸素が薄れていくような私の日常に、深い息継ぎをさせてくれる。