小学校の6年間、ピアノを習っていた。
ピアノは嫌いだった。
先生が弾くと、夢のようになめらかな音が紡がれるのに、私のピアノは壊れかけの機械みたいなガタゴトした音しか鳴らなかった。
毎日30分の練習は大嫌い。毎週土曜日のレッスンだって行きたくない。だけど唯一好きだったのは、先生のお手本を後ろで見ていることだった。
太く短い深爪の先生の指が、鍵盤を柔らかく沈ませ、盤上で優雅なダンスを踊っていた。
ただのピアノの先生ではない、ピアニストで作曲家の先生のコンサートが毎週聞けることだけが、私の楽しみだった。
「踊るように」
9/7/2023, 10:33:24 AM