:透明
ぷかぷか、ぷかぷか、海に浮かんでる。
波の赴くまま、流されるまま。
ぷかぷか、ぷかぷか、月を見上げる。
ぼんやり宇宙に浮かんでる、月。
ぼくとおそろい。
ぷかぷか、ぷかぷか
くふふ、くふふ
ぼくたち、いっしょ
ざざーん、くふふ
ぼくたち、とうめい
誰かが照らし出すから見えちゃうんだ。
ぼくたち、静かに浮かんでるだけ。
静かに、ぷかぷか、くふふ、くふふ
:後悔
どうしてあのとき慈しんでしまったのだろう。肩に寄りかかって眠る貴方の頭をそっと抱き寄せて、髪の感触を確かめて、そっと、頬を寄せてしまった。
大事なものは増やしたくなかった。増えるほど管理が複雑になる。何より全てを大事にできるほど器用ではない。そのくせあれもこれも大事にしよう、取りこぼさないようにしようとしてしまう。結果的に全てを失ってしまった。だからもう大事なものは増やさないと決めていた。
のに、どうしてか、あのとき、たった数分、貴方に慈しみを注いでしまった。心を注いでしまった。そんなつもりではなかったのに。貴方があまりにも安らかに眠るものだから。
失くしたくない、この感情の揺れも、慈しむ心も、貴方のことも。失いたくないならば始めから手にしなければいい、と、もう何年も思い続けてきたというのに。貴方のことを慈しんでしまった。
:失われた時間
■
言葉の重みが違うのは心臓の密度差の所為さ。
ならば、ならばならばわたくしの心臓がこうも唸っているのですからわたくしのことばには、しんぞうには、みつどがございますか。
重い心臓を抱えて息をしている
私の言葉はには
何か、重みがあるのですか。
あると言えますか。
■
いつでも手放せるように
いつでも手を切り落としてしまえるように
もちろん、心残りがないように
それを温もりだと勘違いしないように
大事なものはゆるく握っておくだけ。
■
自殺を決める一言なんてありきたりなことだろうし、自殺を決める出来事だってありきたりなことだろう。
日常を生きているだけで。
唯一の温もりが傷口しかないような、そんな癒やしの中で生きてる。
■
依存なんてちょっと物騒な言い方をしているだけで、ただとっても大好きなだけよ。何も問題ないんだから、悩みすぎないでよ。じゃなきゃ僕、弱っちゃうよ。
■
最初は甘いガムを何度も何度も噛んでいると味がなくなってつまらなくなってしまう。なんでもガムみたいなものだ。好きな曲を何度も何度も聞いているとそのうち最初のときめきを忘れてしまう。絵も、文章も、景色もそうだ。人は慣れる。慣れるからつまらなくなったと言う。
そのくせもう好きでも何でもないのに惰性でガムを噛み続けるのだ。
■
優しい感触がする。
しっとりして、水の中を漂っているような。
心地よく眠りに落ちる寸前のような、優しい浮遊感。
暴力的な話はもちろん好きだ。刺激的なものはクセになるからね。
ただ、こうやって、柔らかなクッションに沈むようなしっとりした話も、嫌いではない。というより、元来の性質はそうなのだから。
ああ、懐かしい私を思い出す。
:子供のままで
じゃれつくようなついばむキスをした。くすぐったそうに小さく笑う無垢な顔と、ゆっくりと指を絡めキュッと握る手のチグハグさ。
を、感じた瞬間押し殺そうとした。だってこんな変な感覚はきっと体感しないほうがいい。
なのに、握り返してくる手が堪らなく嬉しいと思ってしまうから、どうしたら良いものか。
自分ではない何かが腹の底から湧き上がり登ってくる感覚がする。きっと今が境目なんだ。大人と子供の境目、動物と人間の境目。
なら、このままでいい。子供のままでいい。純粋で無垢でまっさらなまま、この愛おしさが欲に呑み込まれて消えてしまうことなく綺麗なまま終わりますように。どうかこのまま貴方だけが忘れてしまいますように。
:モンシロチョウ
ひらりひらり柔らかな羽ばたきのぬくもり
知らず知らず夢中で追いかけて
きらりきらり閃く白い羽
指で掴んで渡したい
粉だらけの指先で
ゆるくすべり落ちては踏んづけて
何事もなかったようなふりをして
恐れ知らずの無邪気さ
幼さゆえの驚きを
ふわりふわり微笑む羽ばたきの優しさ
そんなあなたはモンシロチョウ