お題:眠りにつく前に
安心をひと粒。悪夢をひと粒。ぷち、ぷち。
これだけあれば。さよならひとつ。ぷち、ぷち。
どこへゆこうか。どうにでもなれば。ぷち、ぷち。
脳みそを引っ張って。重力を肌で感じて。ぷち、ぷち。
ぷち、ぷち。悪夢をひと粒。安心をひと粒。
ぷち、ぷち。お別れひとつ。どれほどあれば。
ぷち、ぷち。何も知らないよ。そこへいきたい。
ぷち、ぷち。胃腸を満たして。血液を耳で知って。
暗闇はどこへ連れていってくれるだろう。
目 見えぬまま 音だけを頼りに。
誰かが泣いている。
喉が焼けるように熱い。
引っ張って、満たして。
ぷち、ぷち。 ぷち、ぷち。
ぷち、ぷち。 ぷち、ぷち。
ぷち、ぷち。 ぷち、ぷち。
ぷち、ぷち。 ぷち、ぷち。
お題:懐かしく思うこと
恐怖に包まれ布団をかぶったあの頃。
当時を「懐かしい」と思えたら
僕は幸せになれるだろうか。
お題:暗がりの中で
コーヒーを飲んでいる。
62ページ目にシミを付けてしまった。
だがあまり気にすることでもない。
ぼた、ぼた、シミを付けているのは茶色だけではないのだから。
ヤギのようにこのページを食ってしまえたら、俺の腹の中に落とし込めたら。
たら。
たら。引きずって、椅子から立ち上がった。
もう深夜になるらしいから軽食を摂ろう。
そう机に手をついたとき。
ガチャン。
誤ってカップを弾いてしまった。
派手に割れて、溢れて、インクまで溶かしてしまった。
ああ、ページを喰ってしまった。
まあ、いい。
どうせ、暗がりの中で文字なんて、見えていやしないのだから。
憂鬱で、陰湿で、コーヒー臭酷いこの部屋で、一人。
カフェインを多量摂取して、隈を作って。
ああ、お前の置土産、俺、コーヒー色に。
くっちまったなあ。
お題:紅茶の香り
紅茶の香りに貴方の影を重ねた。
貴方がいなくなって5年は経つ。
貴方は僕が淹れた紅茶を好んでよく飲んでくれていた。いや、“よく”ではないか。良く、呑んでくれていた。
紅茶を淹れれば、部屋の角で怯えと絶望の瞳をシーツで隠した貴方は僕を見上げ「ありがとう」とティーカップを両手で受け取る。
ミルクを注いであげるとドロりと目を溶かし「あなただけが私の闇の中にいるのよ」「愛しているわ」と言う。
腹の中でミルクティーがグルり渦巻く。
懐かしい、陰湿な空気。
僕はずっと夢を見ている。
貴方が……君が、僕に呪いをかけたからさ。
ねえ、■さん。
毎朝、毎晩、毎朝、毎晩、紅茶を淹れ、ミルクを注ぐ。
僕のルーティンさ。
マーブル模様を描く液面に君の瞳を思い出し、紅茶の香りに貴方の影を重ねる。
毎朝、毎晩、毎朝、毎晩。
ねえ、■さん 紅茶 愛しているよ。
お題:どこまでも続く青い空
何度も何度も手を伸ばした。あなたを掴めたらと。
遥か彼方広がる青いあなたはいつでも僕を見ていた。
どんな僕でも見ていた。
なあ。
お前はどこまでいくんだ。