【お題:てぶくろ】
「「お」」
綺麗にハモった一文字が可笑しくて。
「知ってた?」
「おう。なんか最初だけ文字デカくなかった? 音読すんのにみんな声大きくするから頭に残っててさ」
覚えている理由も同じだったことが嬉しくて。
「この子もするかな?」
幼い我が子の寝顔を眺めて。
「読み聞かせる時に自然と声デカくなっちゃうかも」
そう言った貴方が優しく微笑んで。
「ま、覚えるまで何度でも読んでやるよ」
傍らの絵本を大事そうに撫でるから、ああ買ってよかったなと心から思ったのです。
(参考:福音館書店 ウクライナ民話 『てぶくろ』)
【お題:あなたとわたし】
夢の中のあなたはいつも楽しそうだ。
私には出来ないことを当然のようにやってのけ、見ず知らずの人と交流して、無尽蔵の体力で駆け回る。
おかげさまで、目が覚めた時にはもうくたくただ。
少しくらい休んでくれないだろうか。私は休みたい。
やっとの思いで確保した睡眠時間に大運動会を繰り広げられてはたまらない。身体は休めても、心が休まらない。
くしゃりと握り込んだシーツが冷たい。私以外の誰の体温にも触れることがないのだから。
あなたの周りにはあんなに沢山の人がいたのに、私のそばには誰もいない。
誰も。
……急に、怒りを覚えた。
あなたは私だ。夢の中の私だ。なのにどうして、あなたばかりが笑っているのか。
私もその顔で笑えるはずじゃないか。
枕元でけたたましく鳴り出したスマホをひっつかみ、アラームを止める。
慣れた操作でメッセージアプリを立ち上げ、業務用のグループに体調不良の旨を書き込んでそのまま電源を切る。
今日は休む。私も、あなたのように遊びたい。
自然と笑みが溢れた。それはあなたと違って邪悪で下劣で、怠惰なものだろう。
それでもいい。今日は私が楽しむ番だ。
夢の中のあなたも私を見ていればいいのに。いや、
「見てろよ」
私が楽しそうにしているところを見せつけてやる。
今晩のあなたが悔しく思うほど、思いっきり羽を伸ばしてやるんだから。