さよならを言う前に
『さよなら 元気で』その言葉を唇の
上に乗せる前に君の泣き顔を直視して
しまったものだから僕は、何も言えず
最期に君の頬へと腕を伸ばし君の体温を
掌で感じ指先に刻みつけ君の手が僕に
重ねられる瞬間 僕の腕は、君の頬から
離れ ゆっくりと僕の瞼は、閉じていった。
そうして最期の瞬間 君にさよならが
言えなくてよかったと心の中で
安堵した。
空模様
白い薄い雲が刷毛で、塗った様にたなびく
カンカン照りの光が青い空で主張している
暗く澱んだ空から、灰色の雲が厚く
どんどんと積み重なって行く
ドンピカリと稲光が光り空が裂く
厚い雲から、何かが爆発したように
大粒な雨が際限なく後から後から
降ってくる。
まるで悲しみを訴える様に
紫と赤色のグラデーションが重なって
夕方と夜の境目が出来る。
街が眠りに付くため瞼を閉じる。
星々が煌めく闇色の黒が映える
街灯の明かりの光が目立ち
相反する闇と光がお互いの存在を
支え合い主張し合い静かな夜空を
優しく色どっている。
見る時間 見る場所で空模様は、
次々と形や色を変える。
空の喜怒哀楽が映し出され感情を
露わにして、私達人間に怒ったり
一緒に笑ったり寄り添う様に悲しん
だりしているみたいだ。
さて 今日の空模様は、
何色だろう?
私は、そう思いながら今日の
空を見上げた。
鏡
パリーンと鏡が割れた。
「一生懸命 頑張っていればきっと
良い事がある」そう言って僕を労る様に
にっこりと微笑んだ母さん
今にして思えばそれこそが嘘だったのかも
しれない
鏡の前でにっこりと笑顔を作って
いつも仕事に出掛ける母さん
酒浸りになって昼まで寝ている父さんの姿を見ない様にいつも鏡の前で笑っていたの
かもしれない
頑張れ 頑張れと言っていたのは、
いつか鏡の前の自分が現実になると
自分に言い聞かせていたのかもしれない
結果 過労で体を壊した母さんは、
現実を見れずに死んでしまった
後に残ったのは、アルコールが抜けない
父さんとまだ誰かの保護なしでは、生きられない僕だけが残った。
母さんの笑顔を映していた鏡は、
粉々に割れ 代わりに映っているのは....
目を背けていた歪な現実だけだった...。
いつまでも捨てられないもの
久しぶりに押し入れや納戸普段あまり開けず忘れている所の荷物を出して整理していると思いも掛けず懐かしい物が出て来る事がある。
子供が、小さい頃に肌身離さず持っていた
ぬいぐるみや宿題の作文
独身時代に自分のご褒美として買った
バックや装飾品
押し入れにしまっている時は、
とっといていた事も忘れているのに
久しぶりに取り出して、見つけた時には、
懐かしさが込み上げて整理をしていたはずなのに余計散らかしてしまう
そうして結局 使うかもしれないから
思い出だからといろいろな理由を付けて
捨てる理由より捨てない理由ばかりを
探している。
そうしてなかなか自分では、捨てられない物ばかり増えていきまた押し入れに
しまってしまう。
そうしてまた取り出しては同じ事を
繰り返しいつまでも捨てられない物が
押し入れの中に増えて行く。
心の健康(番外編)⑱の続き
誇らしさ(番外編)⑲
●シズクちゃんのはじめてのおつかい
灰色猫ことハイネは、人型になって
耳と尻尾を出しながら料理をしていました。
ハイネの飼い主シズクちゃんの為に
お昼ご飯を作っているハイネ
(何か飼い猫と言うより給仕係みたいに
なってる....)とそう思うのだがハイネは、
考えないように料理を続け
冷蔵庫を開けると(あ....しまった)
卵が無い 今日のお昼ご飯は
オムライスを作っていたハイネ
(どうすっかなあ.....)一瞬考え
チキンライスに変更しようか
そう考えていた時....
「ハイネ 私もお手伝いしたい!」と
シズクちゃんがハイネの元に駆けてきます
「あ~じゃあ買い物に行って来るから
留守番....」とハイネが言い掛けた時
シズクちゃんが「買い物のお手伝いしたい」と名乗りを上げます。
「いや....でも....」ハイネは、一瞬断りますがシズクちゃんの瞳の中に
『お手伝いしたい』と書いてあり断りづらくなったハイネはため息を付いてシズクちゃんに言い聞かせます
その① 卵は、此処から歩いて五分位の
近くのお店で買う事
その②一番小さい卵パックを買う事
その③何かあったら近くの人に助けを
呼ぶ事 その際優しい人を選ぶ事
怪しい人には付いていかない事
この三つをシズクちゃんに約束させました
シズクちゃんは「うん!」と素直に
頷いて出掛けていきました。
ハイネは、(まぁ卵だけだし.... 歩いて
五分位の店だし.... 大丈夫か....)
ハイネは、付いて行くのも過保護かなあと
思いシズクちゃんに任せる事にしました。
一方お手伝い出来てウキウキの
シズクちゃんは.....
「卵!!卵!! あれ?」シズクちゃんが目を
向けるといつも一つしかないお店が
今日は、隣同士くっ付いて2軒並んでいました。
「? ?どっちのお店で買うんだっけ?」
ハイネからは、どっちのお店で買うか言われていませんしかもどっちも外観も
デザインもそっくり同じで
シズクちゃんは、迷ってしまいます。
すると....「お嬢さん お嬢さん!」と
右側のお店の店主がシズクちゃんに
声を掛けました。
「何かお探しかい?」店主は、にっこりと
シズクちゃんに声を掛けます。
「はい あの卵は、ありますか?」
「卵なら此処にあるよ!」と店主が
机の上に卵を載せます。
しかしシズクちゃんは、それを見て
目を丸くします。
その卵は、普通の卵より一回り大きく
シズクちゃんが両手で持ってやっと運べる
位の大きさでした。
シズクちゃんは、ハイネに言われた事を
思い出し店主に聞いてみます。
「あの一番小さい卵は、ありますか?」
「この卵が家の店では、一番小さい卵だよ」と店主は、シズクちゃんに教えます
シズクちゃんは(そうなんだあ....)店主が言うのならそうなのだろう
シズクちゃんは、「これでお金足りますか?」と店主にお金を差しだします
店主は、にっこりと「ありがとうございました」とシズクちゃんからお金を受け取り
ます。
シズクちゃんは、(うんしょ うんしょ)と
両手で卵を落とさない様に運び家路に帰りました。
こうして買い物と言うお手伝いをやり遂げたシズクちゃんは、誇らしくなり
ハイネに褒めて欲しくて
元気良く「ただいま!」と言いました。
想定外の大きさの卵を買ってきた
シズクちゃんに(たった10分の間に何が
あった....)とハイネは、目を白黒させましたが嬉しそうなシズクちゃんを追及出来ず
そのまま心中で(はぁ~)とため息を吐き
(まぁ夕ご飯も卵料理を食べれば良いかぁ
しかしこの卵どうやって割ろう...)
ハイネが卵の割り方に頭を悩ませる
事態があったりもしたが....
何とかオムライスが完成し二人で仲良く
食べたのだった。
(おしまい)