あの頃の私へ
深夜 寝静まった頃 不思議な夢を見た。
あの頃の私と対話する夢
「え~あんた私なの!ババアじゃん!」
それを聞いた 私は口元を緩めた。
(あ~そう言えば昔 こう言う口調だったなあ....)
なんか暴言を吐かれたのに懐かしいなぁと
感慨に耽っていた。
そんな私の表情を見てあの頃の私は唇を
尖らせて不満を露わにする。
私は、大人に考えを押しつけられるのが
大嫌いなすれた子供だった。
私の表情を見てあの頃の私はちっと
舌打ちをして「私つまんない大人に
なるんだねぇ」
つまらない大人.....
父は家庭を顧みない仕事人間の人だった。
母はそんな父に抗えず父の言いなりの
人だった。
毎日父は怒鳴り母は泣いていた。
世間体を気にして離婚届けに判を押さない
父と父の機嫌を伺って離婚して下さいと
強く言えない母そんな光景が私の家庭の
日常茶飯事だった。
どちらも堂々巡りで一向に解決しない
まだ未成年だった私の存在も離婚をしたい母と離婚を許さない父の足を引っ張っただろう
そんな環境で育った当時の私が大人を
信じられないのも無理な話だ
たとえそれが大人になった私自身でも....
それでも私はあの頃の私に向かって
一言だけ告げる。
「大人になったら其処から自由になれるから大丈夫!」
あの頃の私は目を丸くして私を見ていた。
あの頃の私には理不尽な言葉に
思えるだろう。
大嫌いな大人にならなければ其処から
抜け出せないと言ってるのと同じだからだ
でもどうしたって子供の内は大人の許可が
必要でどんなに拒絶しても認めたくなくても大人の力がなければ生きて行け無い
大人 それだけでなにもかも自由になる
訳では無いけれど....
それでも今の私は愛しい人 一緒に居たい人 守りたい人が出来て幸せだから
貴方にも頑張って此処まで来て欲しい
大人の勝手なエゴで勝手な願いだ
でも....「大丈夫!!貴方なら出来る!」
勝手な励ましの言葉を私に告げて
私の夢はそこで終わった。
目を覚まして夢から覚めると
(何だか結局 説教じみちゃうんだよなぁ.....)
大人になった私は、結局自分の考えを
昔の私に押しつけただけで
あの頃の自分の両親と同じ事をしてしまった。
けれど....
「ママ~」廊下からそんな声が聞こえて来た。
幸せになれる事は間違いないから
それだけは確信を持って本当だと
自信を持って言えるから
だから.... 此処まで来い 私!!
逃れられない
逃れられない=逃げられない
だったらどんなに苦しくても理不尽でも
立ち向かって行くしかない
世間という大波に....
社会という荒波に....
また明日
「また明日」そう言葉を交わし合える
一日一日がとっても幸せな事なんだと
また明日が来る事がとても恵まれた事なんだと君の存在を失ってから
初めて気付く
ありがとう僕と友達になってくれて
僕の隣に居てくれて
ごめんね
君の気持ちに気付いてあげられなくて
君にとっての明日は恐怖でも
あったんだね
『また明日』この言葉は君にとって呪いで
あり おまじないであり
自分を奮い立たせる言葉でもあった
そんな君の事を僕は、何も分かって
いなかった。
僕は君の支えになっていたのかなあ....
自信は無いけど最期に会った君は
陽だまりの様な笑顔を浮かべていたから
君の人生は幸せだったと僕は思うんだ
僕は時々君を思い出す そして君の分まで
精一杯生きて行く。
透明
透明度100%みたいなクリアなガラス
向こう側が透けて見える様な鏡面
その鏡面の向こう側に微かに儚げに
映るもう一人の私じっと向こう側を目を
凝らす様に覗くと.....
「ねぇ 私と交換しましょ?」
空耳かと思う程小さな声で
声が聞こえた。
私は、訝し気に鏡を覗き込み
鏡面に手を付いた。
すると するするすると体がガラスを
通り抜けた。
向こう側を覗くと私が立っていた。
もう一人の私はにやりと口角を歪め
私を見ていた。
私の口元ももう一人の私を真似る様に
にやりと歪む
あれ 可笑しいなあ別に笑いたい訳じゃ
ないのに....口元が上がるのが
止められない まるで体が自分の意思を
無視して動いている様な
体のコントロールを誰かに乗っとられた
様なそんな感覚で私は鏡の向こう側を見る
もう一人の私は最後通告の様に私に告げる
「貴方と私いずれどっちが本人かだったなんて忘れる位 貴方はそっち側に馴染むわ
そしてそれは 私も一緒 貴方の口調も
癖も好みも私は寸分違わす真似る事が
出来る だって私は貴方なんですもの
ずっとずっと貴方を余す事無く見てきたん
ですもの だから大丈夫 心配しないで
上手くやるわ 誰も貴方と私が入れ替わった事に気付かない位に上手くだから
貴方はそっち側で私を見ていて永遠に」
もう一人の私の言葉に私は拒絶反応を
示したいのに体が言葉がもう一人の私を
真似る様にもう一人の私が言った言葉を
繰り返す。
頭の中では警報が鳴っているのに
抗えず何も出来ず拒絶する事も出来ず
私は透明なガラスの中に溶けて行く
そして数年後 私は鏡の中に閉じ込められた事実をすっかり無くし鏡の中の自分に
何の疑問も抱かず寧ろ最初から鏡の中に
居たかの様に鏡の向こう側を見ていた。
同時に私を鏡の中に閉じ込めたもう一人の
私も鏡の中から来た事実をすっかり忘れ
初めから自分が本人だったみたいに
私が当たり前に過ごしていた日常を謳歌
していた。
もう一人の私が鏡の中を覗き込み
私に近づく私は何の気無しに
口角を上げて言ってみる。
「ねぇ私と交換しましょ?」
果たしてどちらが本物でどちらが偽物だったのか一番最初に鏡に閉じ込められたのは
本当はどちらだったのか.....
その答えは、不透明だった....。
理想のあなた
今までは君の理想に近づこうと気を張って
肩肘を張って 息をつけなかった。
そんな僕を君は見透かして
「理想は理想であって あくまでタイプの
話しであって 理想のタイプと
好きになる人の事は違うからね
あなたは あなたのままで居てくれないと
私が困るから 変に理想を意識しないで
あなたは あなたのままで居てね」
そんな君の言葉で僕は ほっと息を
吐けたのだった。