透明
透明度100%みたいなクリアなガラス
向こう側が透けて見える様な鏡面
その鏡面の向こう側に微かに儚げに
映るもう一人の私じっと向こう側を目を
凝らす様に覗くと.....
「ねぇ 私と交換しましょ?」
空耳かと思う程小さな声で
声が聞こえた。
私は、訝し気に鏡を覗き込み
鏡面に手を付いた。
すると するするすると体がガラスを
通り抜けた。
向こう側を覗くと私が立っていた。
もう一人の私はにやりと口角を歪め
私を見ていた。
私の口元ももう一人の私を真似る様に
にやりと歪む
あれ 可笑しいなあ別に笑いたい訳じゃ
ないのに....口元が上がるのが
止められない まるで体が自分の意思を
無視して動いている様な
体のコントロールを誰かに乗っとられた
様なそんな感覚で私は鏡の向こう側を見る
もう一人の私は最後通告の様に私に告げる
「貴方と私いずれどっちが本人かだったなんて忘れる位 貴方はそっち側に馴染むわ
そしてそれは 私も一緒 貴方の口調も
癖も好みも私は寸分違わす真似る事が
出来る だって私は貴方なんですもの
ずっとずっと貴方を余す事無く見てきたん
ですもの だから大丈夫 心配しないで
上手くやるわ 誰も貴方と私が入れ替わった事に気付かない位に上手くだから
貴方はそっち側で私を見ていて永遠に」
もう一人の私の言葉に私は拒絶反応を
示したいのに体が言葉がもう一人の私を
真似る様にもう一人の私が言った言葉を
繰り返す。
頭の中では警報が鳴っているのに
抗えず何も出来ず拒絶する事も出来ず
私は透明なガラスの中に溶けて行く
そして数年後 私は鏡の中に閉じ込められた事実をすっかり無くし鏡の中の自分に
何の疑問も抱かず寧ろ最初から鏡の中に
居たかの様に鏡の向こう側を見ていた。
同時に私を鏡の中に閉じ込めたもう一人の
私も鏡の中から来た事実をすっかり忘れ
初めから自分が本人だったみたいに
私が当たり前に過ごしていた日常を謳歌
していた。
もう一人の私が鏡の中を覗き込み
私に近づく私は何の気無しに
口角を上げて言ってみる。
「ねぇ私と交換しましょ?」
果たしてどちらが本物でどちらが偽物だったのか一番最初に鏡に閉じ込められたのは
本当はどちらだったのか.....
その答えは、不透明だった....。
5/22/2024, 12:02:00 AM