一筋の光
何処までも、何処までも 続く暗闇
どくん、どくんと脈を打つ音
その音が何かを知らせる様に呼ぶ
僕... 私 誰を呼んでいるの?
透明な薄い膜の中で、水に揺蕩う
その心地良さに、半分開いていた
瞳がまた 瞼で閉じる。
水の揺らめきが また眠りを誘う
すると... どくん どくんと また脈を
打つ音が聞こえる。
今度は、強く はっきりと
その音に、敏感に、反応し また
目を開ける。
すると 黒一色の世界に 一筋の光が差す
その光に 抗おうなんて 考えは、
微塵も無かった。
その光を見ようと目を凝らす。
凝らせば 凝らす程 視界が広がり
吸い込まれた。
次に目を開けた時 白い空間が
目の前にあった。
そのあまりに、衝撃的な光に
目が潰れると想い
体がびくんと跳ね
口から思いも寄らない 音が鳴った。
「おめでとうございます 元気な
男の子ですよ!」
その音が産声だと僕が気付くのは、
その優しい声を聞いてからだった。
ここは、何処だろう?
なんだか、体が透けている。
下を見ると大勢の人が集まっている。
あの長四角の箱は、何だ?
目を凝らして、見ると棺桶か?
何だ?誰か死んだのか?
遺影の写真を見ると....
ん?????!!俺えぇぇェー
えーーちょ、ちょっと待て
お俺死んだのかーーぁぁ!!
いや確かに前後の記憶が、無いけど...
最近 頭が痛かったけど..!!
下方を見ると人集りは、皆が皆辛気くさい顔をしていた。
中には、号泣してる奴もいる。
あれ 会社の後輩じゃん!!
あんなに泣いてくれるのは、嬉しいけど...
棺桶に、追い縋って泣いてる姿を見ると
正直 引くわ~
あっ!!母さん... ハンカチを目に当てて
静かに泣いていた。
結局 親孝行何にも出来なかったなぁ~
結婚して、安心させてやることも出来なかった。...
奥の方に視線を向けると...
あっ! あれは、会社で マドンナって
噂の女性社員じゃん!!
顔を見ると...涙は、流していなかったけど
なにかを堪える様に唇を結んでいた。
プレゼン会議で、一、二回話した記憶は、
あるが 特に相手に印象を残す様な
会話は、出来なかった気がする。
でも、...俺の葬式来てくれたんだ。....
やっぱりマドンナさんは、優しいなぁ
他にも知ってる顔は、ちらほら居たけど
皆 寂しそうな 悲しそうな表情で
棺桶の 覗き窓に映る俺の顔を見ていた。
俺は、その光景を見て ふっと口元を
緩めた。
死んじゃったのは、悲しいけど
皆 俺の為に集まってくれた。
泣いてくれた。
それが分かっただけで、今の俺は、
結構幸せだった。
皆 ありがとう 元気で!! さようなら
哀愁がそそる
鏡の中からの自分
『朝』
「おはよう」
眠そうだね!
パジャマの袖で、目を擦り
歯ブラシに歯磨き粉を付けて、
シャコシャコ磨く君
制服に着替えて
髪の毛を整えて
ママに内緒で
化粧を少しして
「いってきます」
『昼』
窓際の席で
真面目にノートを取る君
でも、苦手な数学の時は、
少し、ボーッとしてるよね
知ってるよ 君の横顔が
ちゃんと見れるのは
私だけだもん!!
「勉強 お疲れ様!」
『夜』
お風呂上がりの君
体重計に恐る恐る乗って
この世の終わりみたいに
沈んでたね
少し可笑しかったけど
寝る前のアイスを我慢すれば
挽回できるよ!
頑張って!!
「おやすみなさい」
『休日』
洋服を あーでもない こーでもないと
ベッドの上に放り投げる様に並べて
焦ってたね
もしかして デートかな?
君にもそうゆう人がいるんだね
なんだか こっちまでドキドキしちゃうよ!
「楽しんでおいで!」
『朝』
「遅刻しちゃう~」
階段をドタドタいわせながら
駆け下りる私
ママに怒られ 朝から散々
前髪を鏡の前で、整え
両手を頬にパーンと当て
今日も頑張るぞと 気合いを入れる。
最後に「いってきます」と鏡の中の自分に
一声掛けて、家を飛び出した。
「いってらっしゃい! 今日も頑張ってね」
もう一人の私
鏡の中の自分
眠りにつく前に私には、必ずやる事がある。
それは、日記帳のノートを開き読み返す事
○月×日
好きな人とデートをした。
お洒落な燕尾服を着た
羊さんが執事の格好をして
美味しい紅茶を淹れてくれた。
甘くて、掴み所が無くて
フワフワした。
■月△日
友達と雲の上で寝転びながら
お喋りをした。
友達がふざけて
「食べて見ようか?」
と、雲を指しながら、言った。
私は、「落ちてもしらないよ!」
と、笑った。
△月☆日
家族と魔法を使った。
弟は火の精霊と仲良くなり、
火の魔法を使った。
私は、水の精霊と仲良くなり
水中深くまで潜った。
パタンと私は、ノートを閉じる。
「あ~あ楽しかったあぁぁー。」
今日は、そんな出来事に出逢えるかな?
出逢えたらまた明日 日記を書こう。
私の大事な夢日記に・・・
布団に入り電気を消す。
おやすみなさい 良い夢を・・・
「また覗いてるの?」
その声に、俺は、顔を上げる。
「何だお前か...」
胡座をかき膝に左肘を乗せ頬杖を突きながら、俺は、面倒くささを隠しもせずに
俺の正面に、愉しそうに立つそいつを見上げる。
「今日は、何が見えるの?」
そいつは、嬉しそうに俺の隣に座り尋ねる。
俺は、そいつの声を耳だけで受け止め
視線は、下に向けたままむすっと
唇を歪める。
そいつは、俺の返事など、どうでも良いように視線を同じように下に向ける。
そこには、波紋を広げて鏡の様に水面が
光っていた。
その水面下を見ると.....
幸せそうに笑って、手を繋いでいる人間が
見えた。
人間の女性の左手の薬指には、キラキラと
輝いている石が嵌まっていた。
たぶん......人間がよくやる
(病める時も健やかなる時も、永遠に愛する事を誓いますか?) なんて
陳腐で気障な言葉を宣う
お決まりの儀式に使う道具か・・・・
「幸せそうだね・・・」
ふいに俺の隣に座るそいつがにこやかな笑顔を俺に向けて言った。
「フン・・・馬鹿馬鹿しい」
俺は、人間が永遠なんて言葉を使う
例の儀式が大っ嫌いだったのでそっぽを
向いた。
そう、永遠なんて 退屈で苦痛なだけだ。
「でも・・・ 羨ましいんでしょう?」
そいつは、悪戯っぽい笑みを向けて
クスクスと笑う。
俺は、虫の居所が悪くなり、立ち上がる。
「もう・・・行くぞ!!」
怒り混じりの声を出し俺は、踵を返す。
「はいはい・・・」そいつは、苦笑しながら俺の後に付いていく。
そう・・・・永遠なんて─