この頃暑くて暑くて嫌になる。営業のために各地に赴いて会社に戻ってもデスクワーク。
暑さで精神は蝕まれ、酷使されすぎた体は悲鳴を上げる。
よく帰り道の電車でイヤホンをして好きな曲を聞く。別にジャンルはさまざまだし、満員電車のなかではリズムに乗ることはもちろん、もはや体は満足に動かせない。
体は置いていく。避暑地に。心のオアシスに。ひと足先に。心だけ、逃避行。
いつも彼がいた。彼がいれば何も怖くなかった。
今は全てが怖い。彼はもういない。どんなことも冒険になってしまった。近くのコンビニに行くこと、学校に行くこと…
外に出たくないそんな日々が続いた。
お母さんに勧められて位置ゲーというゲームを始めた。
以前と比べて外に出ることが少しづつ増えた。
風景を写真に撮ってみようと少し遠出することもあった。
そんな小さな冒険。
シャァーー!!
後一歩、もう一歩、しかしその球には届かない。
誰も彼には敵わなかった。打球音と彼の掛け声だけがこだまする。
ここまで強いと尊敬すら覚えるレベルだが、私は現に対峙しているのだ。
カァーーン…鋭く隙を突いた一発が台上を走る。脚は後半歩届かない。ラケットの先まで神経が通っているような感覚がする。
届かなかった。ただそこには11を指し示す得点板があるだけだった。
もう高校三年生の夏、卓球なんかを続けるなんて難しいとは分かっていた。
内心、届くことはないと分かっていた。ただそれが現実になっただけだ。そう言い聞かせた。
ある夏の出来事だった、私は見たくもない蛍を見ていた。別に特段意味があったわけでも蛍が好きなわけでもなかった。何の意味もない蛍だった。ただその帰りに買うカードゲーム、その時私はカードゲームに心酔していたこともありそんなのは動機として十分すぎた。
だんだん大人になってあの日のそんな無邪気さと美しさを私は忘れてしまった。