今日にさよなら
「さよなら」
布団に入って寝る直前、そう呟くのが私の習慣だ。こうすることで今日の自分に区切りをつけるのだ。いくら嫌なことがあってもこれで最後だ。そして新しい明日を迎える。新しい私に生まれ変わる。
お気に入り
この子はお気に入りのぬいぐるみ。小さい頃にプレゼントしてもらった。ぬいぐるみなんて子供っぽいと思って一度離れようとしたけれど、無理だった。多分この子は私の半身。死ぬまで大事にして、死んでも一緒にいるの。この子は私の宝物。
誰よりも
走ることが好きだった。誰よりも走り込んだ。走って、走って、走って、その先にある景色を、誰よりも早く見たかった。なのに、天才のあの子にはいつまでたっても追いつけない、追い越せない。
10年後の私から届いた手紙
カタり。まただ。最近、不可思議な手紙が毎日決まった時間に届く。10年後の自分を騙る者からの手紙だ。正直気味が悪い。ドアスコープを覗きこんで送り主が誰なのか突き止めようとしたが、誰もいないのに手紙が届く音がするだけだった。
手紙の内容だって気味が悪い。逃げろ、引っ越せなどという内容がつらつらと書いてある。引っ越しにはお金がかかるし何より今の家を気に入ってる。引っ越す理由などない。
届いた手紙は一応何か相手の手がかりがないか、サラリと目を通す。今日の手紙は一段と不気味だ。とにかく今日だけでも逃げろ。そうじゃないと後悔する。こんな平凡な日々に、なにか起こるはずもないだろう。
ピンポーン。インターホンが鳴る。今日は特に誰も来る予定はなかったはずだが。実家からなにか突発的に送られたのだろうか。ドアスコープも覗かずに、ガチャとドアを開けた。
バレンタイン
今日はバレンタイン。チョコ好きの私にとっては戦争のような日である。最近このような言葉を聞いたことがある。「バレンタインシーズンのチョコレート売り場はコミケ」コミケについて私は詳しくないが、ニュースで流れる映像を見る限りとてつもない混雑が発生する。似たようなことがこの時季のデパ地下や催事場で起こる。ここ一週間毎日のように人に揉まれながら様々なチョコを買ったが、やはり本番は今日だ。エスカレーターで地下まで降りると昨日よりも多い人が見える。いざ、戦場へ。そう心で呟き、私は人混みへと一歩踏み出した。