『何気ないふり』
何気ないふりをして、見て見ぬ振りしても心は嘘をつけないんだ。
あの日受けた傷、いつかの喜び、悲しみの記憶。
そして今感じていることも。
必死に自分を偽って誰かになろうとしたって、この心は自分だけのものだ。
そんな心が感じることが少しでも心地いいものになるために。自分が楽しく生きていくために。
一体何ができるだろう?
『見つめられると』
人からの視線が怖い。自分が見定められているような気がしてしまうから。自分の何かがおかしいと無言の批判を受けている気持ちになってしまうから。
だから私は、人からの視線を避けて生きてきた。前髪は伸ばしているし、なるべく目立たないようにやり過ごしてきたつもりだ。
それなのに、何故だろうか。あの人の視線だけは怖くない。前に目があった時は、気恥ずかしさは感じたが、いつものように息が詰まるようなことはなかった。
友人がふとした時に向けてくる視線でさえ恐ろしい時があるのに、特段仲の良いわけでもないあの人が、何故。
確かに、穏やかそうな人だなとは思う。雰囲気であったり顔の造形が。でも、私の周りの人が特段激しい性格かと言ったらそういうわけでもない。
どうしてだろうと考えているうちに、またあの人の眼差しを思い出した。
……もう一度視線を向けられたら、どうだろう?
以前のは偶然で、いつものように恐怖を感じるのか、それとも。もし恐怖を感じないのだとしたら、これを克服するヒントがあるんじゃないか?それ以前に、私はあの人自体に興味を持っているのかもしれない。
今度は話しかけてみようか。人に話しかけるのなんてもちろん得意じゃないが、数回は話したことがあるし、あの人の雰囲気的に他の人よりは話しかけやすい。
一度、目と目を合わせてちゃんと会話をしてみたい。
……明後日、あの人に話しかけるチャンスがある。
予定を思い出しながら、そんなことを思った。
やっぱり勇気を出して話しかけてみよう。
私は小さな決意をした。
『My heart』
昔の記憶が不意に呼び起こされた。
昔の記憶というのは、楽しかったことや嬉しかった出来事のようなポジティブな記憶ではない。小中学生の頃、理不尽な理由でいじめられたり嫌がらせをされたことや、自分がしてしまった愚かな行為と言った記憶だ。
これらの記憶を思い出すときは当然苦痛を伴うわけで、私は思わず頭を抱えて唸る。
こうやって思い出すのは何回目だろうか。もう何年もこのフラッシュバックと付き合っている。生きるだけでもストレスを抱えているというのにたまったもんじゃない。こうして思い出すたびに、心がジリジリと削られていくような気がするが、削られていくだけで完全に壊れられないのが逆に狂おしい。
いつか望まない記憶の想起が止んだなら、私の心は癒されるだろうか。完全に壊れてしまいたいと思うことは無くなるのだろうか。
そんなことを思いながら、私は押し寄せる不快な記憶の数々から逃げるように、眠りにつくことを試みた。