「通り雨」
わたくしを取り巻く空気が変わりました。そのことに気づいた時には、少し遅かったのですね。すぐさまザァザァと音を立てながら雨がわたくしの身体を濡らしました。これは、まずい。咄嗟に駆け出して、近くにあったコンビニエンスストアへ逃げ込むように向かいました。
ドアの向こうではわたくしのことを待っていましたとばかりに、透明色の傘たちが出迎えてくれました。ここはお店の策略にはまりこの中のひとつを買ってしまおうかしらん。いや、そうだとして、意外にも種類が多く悩ましい。こちらの大きいものか、そちらの安価なものか。ついでに、他のものも買うべきか。もしかすれば、まだ見ぬ新顔の菓子が、これまたわたくしのことを待ってくれているかもしれない……。あとはこれも買っておこう。あれも、今すぐには必要ではないがあったら欲しいかもしれない。待て。そもそも手持ちは足りるのか。今は幾分、懐が寂しい。
では、傘と、この飲み物だけにしよう。そう決めて、購入をする。新しい道具を手に、ほんの少しの高揚感を覚えながらわたくしが外に出たならば、空には美しい七色の橋がかかっていた。
「秋」
夏が死んだ。鬱陶しいほど鮮明に、その存在を示していたあの夏が、死んだのだ。聞こえる音も、差し込む光も、漂う空気も、感じる香りも、何もかもがお前を忘れてしまったかのように。私もきっと同じだ。お前のことを少しばかり憎たらしく思いながらも、晴れやかな気持ちで見送ろうとしている。
そう考えてみれば、私というものはいささか薄情ではないか。お前と過ごしたあの日々の中では、お前など早くいなくなってしまえと願っていたのに。口にも出していたか。だが、いざ実際にお前が去ってからは、どことなく慈しむような思いすら浮かんでいるのだ。それでいて、まるで、お前との関わりなんてものが初めからなかったかのようにも思っている。そういう人がいたんですか。知りませんでした、と。
こんな私のことを身勝手だとお前は言うだろうか。しかしそんな小言も、今となっては聞く術がない。遠く彼方にお前が行ったから。鮮烈な光を連れて、お前は消えたから。
もっとも、再会の日を待ち望みたくなるほど、お前は遠くに行っちゃいないのだけれど。